研究課題/領域番号 |
18K14405
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
三谷 塁一 信州大学, 先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所, 助教(特定雇用) (40773304)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脂肪細胞 / NAMPT / イソフラボン |
研究実績の概要 |
肥満は2型糖尿病などの生活習慣病だけでなく、脳機能低下のリスクを高めることが近年明らかとなってきた。上記のような肥満関連疾患が誘発される作用機序として、脂肪組織由来のアディポカインが鍵となる。脂肪細胞は、NAD合成経路の律速酵素であるNicotinamide phosphoribosyltransferase (NAMPT)をアディポカインとして分泌する。分泌されたNAMPTは、視床下部でのNAD合成量を制御することで、ニューロンの活性化と身体活動の活性化を促す。つまり、NAMPTの分泌増加は脳機能低下を含む肥満関連疾患を改善する効果があると考えられる。そこで本年度では、脂肪細胞でのNAMPTの発現・分泌を増加する食品成分を探索し、その発現・分泌メカニズムを明らかにすることを目指した。 マウス線維芽細胞株(3T3-L1細胞)を大豆イソフラボンの一種であるゲニステインの存在下で脂肪細胞へと分化させた結果、ゲニステインの濃度依存的にNAMPTの発現量および分泌量を増加した。53番目のLysを疑似アセチル化アミノ酸であるGlnに置換したNAMPTでは、ゲニステインによる細胞外分泌の増加は消失した。また、NAMPTの分泌亢進に関与する標的分子を探索した結果、細胞膜タンパク質であるprohibitin 1(PHB1)を見出した。PHB1をノックダウンした3T3-L1細胞ではゲニステインによるNAMPTの発現の増加は消失した。雄性ICRマウスにゲニステインを2週間経口投与したところ、対照群と比較してゲニステイン投与群で皮下脂肪組織でのNAMPTの発現量が顕著に増加した。上記の投与試験の結果は、ゲニステインが固体レベルでもNAMPTの発現を増加する効果を持つ事を示す重要な知見であり、脂肪細胞からのNAMPTの分泌を介した脳機能改善や肥満関連疾患の予防に繋がると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲニステインによるNAMPTの発現・分泌調節メカニズムを明らかにすることができ、なおかつ個体レベルでもゲニステインがNAMPTの発現量を増加することが証明できたため。
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今後の研究の推進方策 |
①ゲニステイン摂取によって脂肪組織のNAMPTの発現が増加することが判明したが、分泌されたNAMPTが血流を介してどの組織に到達しているのかは未だ不明である。そこで脂肪細胞から分泌されたNAMPTが脳内のどの領域(大脳皮質、海馬、視床下部など)に到達しているのかを脳組織切片で解析する。生体内の内在性NAMPTと区別する為に、タグ融合NAMPTをマウスの脂肪組織内に発現させて、分泌されたタグ融合NAMPTの生体内局在を免疫組織染色法で観察する。 ②ゲニステインと他の天然由来イソフラボンでNAMPTの発現・分泌能を比較して、ゲニステインよりも高いNAMPT分泌促進能を持つイソフラボンを見出す。見出したイソフラボンについては、個体レベルでの効果をゲニステインと比較して解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由)当初計画で見込んたよりも消耗品費および試薬購入費を抑えて、研究を遂行することができたため。また、動物実験では、必要最低限の個体数で成果が出たため、次年度使用額が生じた。 (使用計画)次年度使用額は平成31年度請求額と合わせて消耗品費および試薬購入費として使用する予定である。
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