研究課題/領域番号 |
18K14406
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
真鍋 祐樹 京都大学, 農学研究科, 助教 (20730104)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カロテノイド / シフォナキサンチン / 代謝産物 / 抱合体 |
研究実績の概要 |
申請者は海ぶどうなどの食用緑藻に含まれるシフォナキサンチンに注目し、その生物活性の探索を進めてきた。そのなかで当該カロテノイドが強い抗炎症作用を示すことを見出した。また、生体内においてシフォナキサンチンは少なくとも3種類の酸化的代謝産物(それぞれDHM、DHS、DDMとする)へと変換され、臓器によっては代謝産物の方が多く蓄積することを見出している。本研究では、シフォナキサンチンの生体内代謝の全容の解明と代謝産物の生物活性の評価を目的としており、本年度は(1)シフォナキサンチンがヒトの肝臓においても代謝反応を受けるかどうかを明らかにすること、さらに(2)前年度に新たに見出したシフォナキサンチン代謝産物の同定を目的とした。 (1)について、市販のヒト肝臓S9フラクションを用いて検討したところ、シフォナキサンチンをDHMへと代謝する酵素が、ヒトの肝臓においても発現していることがわかった。粗酵素液を調製する手法が異なるため単純比較はできないが、マウス肝臓ホモジネートと比較すると、ヒト肝臓S9フラクションの同活性は弱いものであった。 (2)について、前年度のラット肝がん由来細胞を用いた実験から、HPLCクロマトグラム上でシフォナキサンチンの新規代謝産物と考えられるピークを得た。吸収スペクトルの比較から、シフォナキサンチンの新規エステル体であると予想できたが、詳細は不明であった。そこで本年度は質量分析や酵素による分解実験、in vitroでの大量調製法の確立を目指した。質量分析ではネガティブイオンモードにおいてよくイオン化することがわかり、酵素による分解実験と合わせて、新規代謝産物がシフォナキサンチンのグルクロン酸抱合体である可能性を示唆するデータが得られた。しかしながらin vitroで大量調製する手法が未だ確立できず、NMR等による確認にまでは至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に得られたシフォナキサンチンの新規代謝産物が、BCO2反応による開裂産物とは異なることがわかってきたため、本年度の到達目標であったBCO2の酵素活性評価系の確立は振り出しに戻ってしまった。コロナ禍で新規の実験を開始することができず、また、オンライン対応や分析機器の不調も重なり、進捗に遅れが出た。しかしながら、ヒト肝臓S9フラクションにおいてもシフォナキサンチン代謝酵素が発現していることが明らかになるなど、当初計画していた実験において、一定の成果が得られている。また、これまでのデータをまとめ、カロテノイドの体内動態に関する論文を2報投稿し、共にオープンアクセス誌に掲載された。以上のように、実験の進捗に遅れは出ているものの、一定の成果は得られており、また、論文報告などでは進捗があったため、全体としてはやや遅れていると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得られたシフォナキサンチンの新規代謝産物が、BCO2反応による開裂産物とは異なることがわかってきたため、早急にBCO2粗酵素液の探索を進めなければならない。BCO2はミトコンドリアに発現していることが報告されているため、市販のヒト肝臓由来ミトコンドリア画分や、マウスやラットの肝臓から調製したミトコンドリア画分を中心に探索を進める。また、抱合体について、これまでは細胞破砕液を用いた検討を進めており、構造解析に十分な量の産物が得られていなかった。理由として、抽出効率の低さと活性の低さが予想されていたが、後者が主な理由であることが明らかになってきたため、こちらについても粗酵素液の探索が必要となる。そこでまずは組織ホモジネートを用いた酵素反応系の確立を試みる。また、本研究全体の研究目的はシフォナキサンチンの生体内代謝の全容の解明である。令和3年度は最終年度であるため、ヒト正常肝細胞においてシフォナキサンチンがどのように代謝されるかを調べ、特に注力すべき代謝反応を選定し、その後の研究に反映させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、2020年度当初は新規の実験を開始することができなかった。また、LC-MSの不調などが重なり、代謝産物の構造推定に必要な精密分析が実施できない期間があった。そのため実験が滞り、次年度使用額が生じた。遅れを取り戻すべく、「今後の研究の推進方策」に記載したように使用したいと考えている。
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