研究課題
肥満症・代謝性疾患の予防・改善の新たな標的として腸内環境が注目され、特に、食品成分由来の腸内細菌代謝物の重要性が明らかになりつつある。近年、大豆イソフラボン(Daidzein:DZ)の新たな生体調節機能として、心血管病(CVD)の改善効果が臨床研究にて指摘されている。その分子実体の一つに大豆イソフラボン由来の腸内細菌代謝物・エクオール(Equol:EQ)の存在が示唆されているが、その詳細な作用機序は未解明である。植物性エストロゲンアナログであるDZには、エストロゲンと同様、心筋梗塞や脳梗塞等のリスク軽減効果が報告されている。その作用機序として、エストロゲン受容体(ER)を介したLDL の減少とVLDL/HDL の増加による脂質異常改善作用や血圧降下作用等が示唆されている。また、エストロゲンの機能発現に関して、従来のERを介した作用に加え、近年、新規エストロゲン受容体である細胞膜受容体・GPR30 による新たな作用機序が指摘されている。そこで本研究では、DZやEQによるCVDリスク改善効果の新規な分子基盤を解明することを目的に、特に腸管におけるエストロゲン受容体GPR30に着目し、『GPR30が食事由来エストロゲンアナログであるDZ及びEQの感知を司る栄養素センサーとして機能し、腸管を起点とした臓器連関による血管組織のVascular remodelingに関与することで、CVDリスク改善効果に寄与するのではないか』との作業仮説を検証した。今年度は、細胞試験にて植物性エストロゲンであるDZやEQなどが細胞膜上エストロゲン受容体GPR30の新規リガンドとなるのか、さらには、動脈硬化改善作用におけるGPR30の機能的意義の解明を動物試験にて試みた。
2: おおむね順調に進展している
エストロゲン受容体GPR30に対する大豆成分由来新規リガンドの同定、さらにはGPR30による自然免疫細胞(単球/腸管マクロファージ)の機能制御を介して血管組織のVascular remodelingに関与するのかについて検討する一環として、最初にGPR30リガンドスクリーニング系の構築を試みた。今年度、Flp-In T-Rex HEK293細胞によるGPR30強制発現系の構築が完了しており、大豆成分由来新規リガンドの結合能の評価を進めている。ポジティブコントロールとして、内因性エストロゲン(17β-estradiol; E2)及び合成リガンドG-1(GPR30 agonist)を用い、大豆イソフラボン(Daidzein:DZ)とその腸内細菌代謝物・エクオール(Equol:EQ)のGPR30への親和性に関して、細胞内セカンドメッセンジャーを評価指標として検討している。GPR30下流シグナルについては、評価系あるいは発現組織の違いやcAMP産生機序および細胞内Ca2+濃度に応じて、共役するGタンパク質(Gi, Gq, Gs )に関する統一的な見解が得られていない。従って、我々はDZおよびEQの結合に伴う下流シグナルに関して多面的な解析を進めている。次に、腸管免疫-血管機能を基軸に臓器連関を介した動脈硬化症改善におけるGPR30の機能的意義についてモデルマウスを用いて検討する一環として、Gpr30遺伝子欠損マウスの作製を試みた。今年度、ゲノム編集(CRISPR/Cas9)によるGpr30遺伝子欠損を導入したファウンダーマウスより、現在、ホモ欠損型系統の樹立が完了している。
大豆イソフラボン(Daidzein:DZ)とその腸内細菌代謝物・エクオール(Equol:EQ)の作用によるGPR30 を介した腸管粘膜免疫の制御機構や腸内細菌叢の菌組成と機能特性(EQ 産生能等)を検討し、腸管免疫-血管機能を基軸とした臓器連関によるVascular remodeling の作用機序を解明することで、動脈硬化発症・進展における新規の分子基盤を明らかにする。今年度に作出したGpr30遺伝子欠損マウスやGPR30リガンドスクリーニング系を駆使して、腸管の自然免疫細胞(マクロファージ)におけるGPR30の機能解析(細胞分化、遊走能等)に加えて、血管内皮細胞におけるGPR30の機能解析(炎症/抗炎症指標・eNOS活性化・接着分子発現等)を実施し、動脈硬化進展に関する新規の作用機序を見出す予定である。
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