研究課題/領域番号 |
18K14417
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
安達 真一 宇都宮大学, バイオサイエンス教育研究センター, 特任助教 (10747041)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 食脂肪 / 嗜好性 / PI3K/Akt-mTOR |
研究実績の概要 |
本研究は、食脂肪に対する嗜好性の形成や維持に海馬PI3K (phosphatidylinositol 3-kinase)/Akt-mTOR (mammalian target of Rapamycin)シグナル伝達経路が関与しているか、また食脂肪摂取時にどのようなメカニズムで同経路が活性化されるかについて、動物行動学的及び生化学的手法を用いて明らかにすることを目的とした。 近年、モルヒネの依存に脳海馬の神経細胞におけるPI3K/Akt-mTOR経路が関与するということが報告されているが、食品の摂取行動に関与しているかについては不明な点が多い。そこでまずマウスに食脂肪として乳化油脂を摂取させ、その際の海馬Akt及びmTORの活性化レベル (リン酸化状態)をウエスタンブロッティング法により解析したところ、乳化油脂の摂取量の経日的な増加に伴い、海馬Akt及びmTORの活性化が見られた。さらにmTORの下流因子であるp70S6K (70-kDa ribosomal S6 kinase)についても同様に乳化油脂摂取により活性化が見られた。次に、海馬PI3K/Akt-mTOR経路を阻害した際に食脂肪に対する嗜好性に変化が見られるかについて調べるために、マウス両側海馬にPI3K阻害剤LY294002及びmTOR阻害剤Rapamycinを微量投与し、乳化油脂摂取量を測定した。その結果、両阻害剤投与時において乳化油脂の摂取量に低下が見られた。以上より、食脂肪の嗜好性に海馬PI3K/Akt-mTOR経路が関与することが示唆された。 今後は、食脂肪摂取時に海馬の神経細胞においてPI3K/Akt-mTOR経路が活性化するかどうかについて免疫組織化学法を用いて検討を行う。また海馬におけるオピオイド受容体が食脂肪摂取時に見られる同経路の活性化に関与しているのかについても行動薬理学手法を用いて検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生化学的手法を用いた検討により、食脂肪摂取時にマウス脳海馬におけるAkt及びmTORの活性化レベルが上昇することを明らかとした。また行動薬理的手法を用いた検討により、PI3K阻害剤及びmTOR阻害剤を海馬に微量投与した際に食脂肪に対する嗜好性が低下することを明らかとした。これらの結果は、食脂肪の嗜好性に海馬PI3K/Akt-mTOR経路が関与するという申請者の仮説を支持するもので、今後のさらなる解析を進めるにあたり基盤となる中心的なデータであると考えている。以上を鑑みると、現在のところ研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
モルヒネの依存に脳海馬の神経細胞におけるPI3K/Akt-mTOR経路が活性化すると報告されている。食脂肪に対する嗜好性についても海馬の神経細胞におけるPI3K/Akt-mTOR経路が関与しているかどうかについて免疫組織化学法を用いて検討を行う。またモルヒネへの執着行動における海馬PI3K/Akt-mTOR経路の活性化はμオピオイド受容体を介していることも報告されている。そこで海馬におけるオピオイド受容体が食脂肪摂取時に見られる同経路の活性化に関与しているのかについて行動薬理学手法を用いて検討を行う。
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