我々は大豆イソフラボン・ダイゼインが雌特異的に食欲低下および胃内容排出遅延を引き起こすことを見出し、作用機構の解明を目指して研究を続けてきた。その中で、ラットが摂取したダイゼインはかなりの割合でエコールに代謝され、エコールが腸肝循環しながら経日的に蓄積されることにより、食欲低下を引き起こすことが推測された。平成30年度にラット胆汁中の各種エコール抱合体タイプを雌雄で比較し、エコール4’-グルクロン酸抱合体が雌特異的にラットの胆汁中に存在することを明らかにした。さらに令和元年度には、給餌を日に2回(各1時間、間隔2時間)に制限した2食制で飼育したラットではダイゼイン摂取により1食目後の胃排出が遅延し2食目特異的に飼料摂取量が減少すること、スリーブ状胃切除により胃貯留能を減じたラットではエコールによる飼料摂取量の減少は見られないこと、ダイゼイン摂取により視床下部において食欲抑制と胃排出遅延に関与する神経ペプチドのウロコルチン遺伝子発現が有意に増加することを明らかにした。消化管ホルモンのオベスタチンは視床下部ウロコルチンニューロンの活性化を介して胃排出を遅延させる可能性が示されていることから、令和2年度は、ダイゼイン摂取がオベスタチン前駆体・プレプログレリン遺伝子発現に与える影響を検討した。2食制で飼育した雌SDラット(8週齢)にダイゼインを摂取させ、有意な飼料摂取量の減少が見られた2食目の時間帯で小腸粘膜のプレプログレリン遺伝子発現を測定したところ、有意な増加が見られた。ダイゼイン摂取による食欲低下作用の機構として、ダイゼインが腸内細菌による代謝、小腸および肝臓での代謝によりエコール4’-グルクロン酸抱合体に変換され、それが小腸でのプレプログレリン合成、オベスタチン分泌を高めることで視床下部ウロコルチンニューロンの活性化を介して胃排出を遅延させ、食欲を抑制することが示唆された。
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