ほうじ茶は豊かな香りを持つ日本を代表するお茶であるが、研究報告は極めて少なく、その機能性はほとんど解明されていない。本研究は、ほうじ茶の焙煎時に生じるメイラード反応に着目し、その反応生成物である香気成分とメラノイジンの機能性を解明することで、ほうじ茶の新たな価値創造と新規食品素材や医薬品への活用の技術基盤確立を目指す。 本年度は、ほうじ茶の主要香気成分であるピラジン類について、動物試験による抗不安効果を評価すると共に、ほうじ茶から抽出したメラノイジンの構造評価を試みた。ピラジン類の抗不安効果については、腹腔内投与したマウスの高架式十字迷路試験により、オープンアームとクローズアームの侵入回数を比較した。その結果、ピラジン類を投与したマウスはコントロールのマウスよりも、オープンアームへの侵入率が優位に高く、ピラジン類の抗不安効果が示された。メラノイジンの構造評価については、茶の高分子成分を分画分子量5 kDaのセルロース系限外濾過膜、および分画分子量5 kDaの遠心式限外濾過フィルターでメラノイジンを含む画分を回収し、この凍結乾燥粉末を評価試料とした。緑茶およびほうじ茶を試料として、焙煎による高分子成分の構造変化を、デュマ燃焼法による全窒素定量分析、赤外分光法、核磁気共鳴分光法により評価した。焙煎による窒素量変化、赤外分光スペクトルの変化は確認されなかったものの、核磁気共鳴スペクトルのガラツクロン酸由来ピークが鮮明になったことから、低分子化などの構造変化が示唆された。
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