食品中のビタミンB12 (VB12) を酵素活性を指標にしたバイオセンサーを用いて簡易に定量する方法の開発を目的とした研究を遂行した。本年度までに文献調査などから、VB12を補酵素として要求するRibonucleoside triphosphate reductase (RNR)をバイオセンサー候補とした検討を行った。RNRの候補として、広く研究の行われている乳酸菌のRNRを選択し、NCBIデータベースから遺伝子配列を取得し、大腸菌を用いた大量発現系を新たに構築し、His-tagを付与したリコンビナントRNR (reRNR) の精製を行った。また、クローニングを行ったLactobacillus delbrueckiisubsp. lactis(ATCC 7830)のRNR遺伝子配列を解析した結果、NCBIに登録された遺伝子配列 (LDL72_00535)と比較してアミノ酸配列の73位がK→E、325位がL→P、531位がA→Dとなる変異を伴っていたが、Swiss modelを用いた立体構造解析から、大きな立体構造の変化は観察されなかった。次いで、reRNRのVB12依存的な触媒反応の検討を行った。reRNRは還元剤であるDTTにより配位したVB12が還元され、この電子がリボヌクレオチドに渡されることでデオキシリボヌクレオチド (dNTP) を生じる反応を触媒する。DTTは酸化することで260 nmに特異的な吸光を示すことから、試験の簡便性からこの吸光波長の変化を指標としたが、反応液中のVB12との無機的な酸化還元反応を生じ、安定的な指標とはならないことが明らかとなった。そこで、高速液体クロマトグラフィーを用いて反応産物であるdNTPの産生量を測定し、reRNRの活性指標とすることを検討した。この結果食品中のVB12を簡便に測定するためには反応条件のさらなる最適化が必要であるものの、RNR活性により産生されたdNTP量を試料中VB12濃度測定の指標とする事は一定の妥当性があると考えられた。
|