本研究は,昆虫ホルモンによる植物耐塩性機構の解明を目指して解析を行った。 近年、植物に化合物を処理することで,植物が持つ環境ストレス応答能力を強化し,ストレス耐性を付与する手法,ケミカルプライミングに注目が集まっている。これまでに申請者は昆虫ホルモンを外生的に投与することによってシロイヌナズナの耐塩性を強化できることを発見した。遺伝学的解析から、シロイヌナズナ昆虫ホルモン合成酵素過剰発現体が耐塩性を、ノックアウト変異体が感受性を示すことを明らかにした。さらに、昆虫ホルモン処理時の発現解析から、根のバリア機構として機能するスベリンの合成が促進したことによって耐塩性が強化したことが示唆された。また、植物体内で昆虫ホルモンと結合する受容体様タンパク質を同定するために、昆虫ホルモンに対して非感受性を示す変異体を単離し、次世代シークエンサーによって候補原因遺伝子を単離した。昆虫ホルモンは哺乳類への影響が少ないことから殺虫剤成分として実用化されている。従って,本研究の推進は殺虫効果と耐塩性を兼ね備えた安全性の高い農薬開発に繋がることが期待できる。
|