研究実績の概要 |
我々は最近、植物の主要な光受容体であるフィトクロムが、シロイヌナズナにおいて2,000を超える遺伝子に直接働きかけ、それらの転写開始点を変化させることで、mRNAの5’末端の長さを制御し、その結果、およそ400ものタンパク質の細胞内局在が光依存的に変化することを発見した (Ushijima et al., Cell, 2017)。これらの標的はいずれも、これまで特定の細胞内小器官にしか局在しないと考えられていたタンパク質であるが、当該制御によりN末端のシグナル配列が失われることで、機能未知の細胞質局在型アイソフォームが出現し、それらが様々な光環境への植物の適応に働くことを明らかにした。 そこで本研究では、光依存的な転写開始点変化によって生じる細胞質局在型アイソフォームの機能をイネで網羅的に解析し、その中から育種に利用可能な機能を持つものを同定することで、細胞質局在型アイソフォームを利用した新奇育種技術の開発を目指している。 昨年度までに、シロイヌナズナにおいて発見した光依存的な転写開始点制御が、実用植物であるイネとトマトにおいても存在することを検証するために、イネおよびトマトの芽生えを暗所で生育させた後、連続赤色光を3時間照射したサンプルと、そのまま暗所で生育させたサンプルからそれぞれ抽出したRNAを用い、次世代シーケンサーによる転写開始点解析(TSS-seq解析)を行い、赤色光依存的な転写開始点変化を解析するのに十分な品質のデータを得た。得られたTSS-seqデータを用いて解析を行い、イネやトマトにおいても光依存的な転写開始点制御が存在することを明らかにした。 そこで当該年度では、イネにおいて光依存的な転写開始点制御によって細胞質局在型アイソフォームを生じる遺伝子について、形質転換のためのコンストラクションを行い、バイナリーベクターの整備を行った。
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