研究課題/領域番号 |
18K14446
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
高橋 実鈴 (野坂実鈴) 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 助教 (20738091)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リプログラミング / 幹細胞 / 茎頂分裂組織 / イネ / 胚発生 |
研究実績の概要 |
植物細胞は全能性を持ち、分化した体細胞を適切な条件で培養すると、リプログラミングを起動して体細胞を幹細胞へ変化させることができる。本研究は植物細胞のリプログラミングを起動するマスター因子を明らかにするため、リプログラミングの起動スイッチが入らないイネshootless(shl) 変異体に着目した。shl変異体は胚発生において幹細胞を含む茎頂分裂組織を形成することができず、カルスからシュートを再分化することもできない。これまでの研究によりSHL遺伝子は小分子RNAの一種であるta-siRNAの合成に関わり、イネの胚発生における幹細胞を含む茎頂分裂組織の形成には、ta-siRNAによるETTIN(ETT)遺伝子の発現抑制が必要であることが知られている。shl変異体ではta-siRNAを合成できないためETT遺伝子の脱抑制が起こり、ETTの下流にあるリプログラミングを起動するマスター因子の発現が低下するため、幹細胞を含む茎頂分裂組織が形成できないと考えられた。そこで、shl変異体において発現が低下した遺伝子群の中にリプログラミングを起動するマスター因子が存在すると仮定し、その探索を行った。 本年度は、昨年度に胚発生のリプログラミングを起動するマスター因子候補として抽出した24個の転写因子の発現領域を解析した。その結果、少なくとも11個の転写因子が幹細胞を形成する初期胚の腹側で特異的に発現していた。また24個のマスター因子候補がETTの直接の標的であるか明らかにするため、プロモーター配列にETTの結合モチーフがあるか調べた結果、21個のマスター因子候補のプロモーター配列にETTの結合モチーフと推定される配列が見つかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
胚発生におけるリプログラミングを起動する24個のマスター因子候補の発現領域を明らかにするためin situハイブリダイゼーション法を用いたが、初期胚のサンプリングに想定よりも長い時間を要した。またETTの直接の標的を明らかにするため、ETT抗体を用いた野生型とshl変異体由来のカルスのChIP解析を計画していたが、ChIP解析に先立ち、野生型とshl変異体由来のカルスの再分化過程における遺伝子発現の比較を研究計画に追加した。そのため、本年度中にChIP解析を完了することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度はETTの直接の標的を明らかにするため、野生型とshl変異体由来のカルスを用いたRNA-seq解析とChIP解析の結果をまとめる。本年度、野生型とshl変異体由来のカルスの再分化過程における遺伝子発現の違いを比較するためRNA-seq解析を進めており、令和2年度は、この解析結果より再分化カルスにおいてリプログラミングを起動するマスター因子候補を抽出する。その後、このマスター因子候補の中からETTの直接の標的因子をChIP解析の結果をもとに同定し、再分化カルスにおいてリプログラミングを起動するマスター因子候補を決定する。 最後に、胚発生またはカルスの再分化過程でリプログラミングを起動するマスター因子候補を最終的な候補遺伝子として、これらの遺伝子(群)がリプログラミングを起動して幹細胞を形成する能力を持つか検証する。shl変異体由来のカルスは幹細胞を形成できないため再分化能を持たず、導入した遺伝子(群)にリプログラミングを起動する能力があれば、幹細胞が形成され、植物体を再分化することが想定される。またマスター因子は1つの遺伝子では無い可能性があるので、この検証実験では複数の遺伝子を同時に過剰発現できるベクターを用意し、候補遺伝子の絞り込みを進める。この方法により作出する形質転換植物の種類を減らし、実験補助者を雇用せずに検証実験を進めることができる。 以上より、イネのリプログラミングを起動するマスター因子を明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、学会の開催が中止になり出張を取りやめたので、旅費における次年度使用額が生じた。これについては、補助事業期間を延長した次年度の研究成果発表の旅費として使用する。 研究の遂行が遅れたため、本年度に計画していた植物形質転換実験を実施できなかったので、実験補助者を雇用しなかった。そのため人件費・謝金における次年度使用額が生じた。これについては、植物形質転換実験の計画変更に伴い実験補助者の雇用の必要が無くなったため、補助事業期間を延長した次年度の物品費として使用する。
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