研究課題
本年度はまず,早晩性が異なる18品種のトウモロコシを圃場条件下で早期播種し,低温下での初期生育と光合成特性について品種間比較を行った.その結果,生育初期における葉面積拡大ならびに乾物生産能力は晩生品種に比べて早生品種で高く,播種から絹糸抽出までの積算温度と有意な負の相関を示した.供試品種の中でも北海道向け普及品種は,生育初期の葉面積拡大および乾物生産性に優れており,低温期に測定したガス交換速度および光化学系IIの最大量子収率(Fv/Fm)が顕著に高い値を示したことから,当該品種を耐冷性品種として選抜した.一方,生育初期の乾物生産能力が最も低かった晩生品種では,ガス交換速度およびFv/Fmともに供試品種中で特に低い値を示したことから,当該品種を低温感受性品種とした.次に,これらの品種をポット栽培し,クロロフィル蛍光消光測定から熱放散活性を評価したところ,耐性品種では感受性品種に比べて非光化学的消光(NPQ)が有意に高い値を示した.このことから,低温下における旺盛な初期生育には熱放散活性が関与することが示唆された.さらに,これら2品種を人工環境下で栽培し,4葉期の最上位完全展開葉から葉緑体を単離し,昨年度構築したレーザー誘起蛍光測定装置を用いて葉緑体温度を測定した.顕微鏡下で単一葉緑体に青色半導体レーザーを照射し,葉緑体周辺の温度変化をモニターしたところ,耐冷性品種では晩生品種に比べてレーザー照射後の葉緑体周辺温度の増加速度が速い傾向を示した.今後は様々な測定条件で実験を行い,熱放散と葉緑体温度の関連性をさらに詳しく調査する.
2: おおむね順調に進展している
本年度は圃場条件下での品種間比較を通して,低温下における乾物生産ならびに光合成特性が異なる品種を選抜することができた.また,これらの品種を用いたポット試験から,耐冷性において熱放散活性が重要であることを示唆する結果が得られた.今後は,これら2品種を対象に詳細な解析を進め,熱放散と葉緑体温度との関連性をさらに検討する必要があるが,現時点ではおおむね順調に進展していると判断できる.
2020年度は,本年度と同様の圃場試験を行い,耐性・感受性品種の初期生育特性について再現性を確認する.また,ポット試験および人工環境下での実験を平行して行い,様々な条件で熱放散と葉緑体温度との関連性を検討する.最後に,これらの品種にススキ属を加えてC4植物の属間比較を行い,結果を取りまとめる.
新型肺炎感染症の流行拡大により,予定していた学会参加の取りやめや輸入機材の配送が大幅に遅延したことにより,年度内の執行ができなかった.既に購入済みの機材については,来年度に会計処理を行い,学会中止に伴う繰越経費については,論文投稿のための経費として適宜執行する.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Global Change Biology Bioenergy
巻: 11 ページ: 1318-1333
https ://doi.org/10.1111/gcbb.12632
BioEnergy Research
巻: - ページ: -
https://doi.org/10.1007/s12155-019-10066-x