本年度はまず,早晩性が異なる15品種を用いた品種比較試験の年次反復を行い,昨年度の圃場試験で明らかとなった低温下における個葉光合成能力と初期生育特性の品種間差異の再現性を確認した.また,これらの供試品種のうち,両年次で特徴的な光合成特性を示した7品種について,圃場条件下で非光化学的消光(NPQ)の測定を行い,光合成能力に関わる内生成分を分析した.その結果,光合成能力が低い品種では,葉身窒素含量やクロロフィル含量,可溶性タンパク質含量が低く,窒素吸収・同化能力が制限要因であることが示唆された.一方で,葉身窒素含量が高いにもかかわらず光合成能力が低い品種も認められ,この品種ではNPQが顕著に低い値を示したことから,熱放散活性が低いことが明らかとなった.また,両年次で高い光合成能力を示した品種では,窒素含量等の内生成分およびNPQのいずれにおいても他の品種に比べて高い値を示した.さらに,NPQの値が顕著に異なる2品種を低温条件下の野外でポット栽培し,低温ストレスからの回復過程についても比較したところ,感受性品種では耐性品種に比べて低温下での光合成速度が46%低く,低温から適温環境に戻した5日後でも有意に低い値を示し,耐性品種と同程度の光合成速度に回復するまでには10日を要したことから,低温ストレスからの回復も遅いことが明らかとなった.最後に,耐冷性が異なるこれら2品種とススキ(Miscanthus x giganteus)の葉肉細胞から葉緑体を抽出し,葉緑体における蛍光消光と葉緑体温度を同時測定を行い,熱放散活性と葉緑体温度の関連性についても検討を行った.
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