研究実績の概要 |
2020年度はこれまで得られたフィールド・トランスクリプトームデータから、生育ステージに依存した遺伝子の発現パターンの解析および外部環境条件(気温、ポテンシャル蒸発量、地温)と遺伝子発現の相関解析を進めた。 まず、葉における約14,000遺伝子、根における約16,000遺伝子を対象に移植~幼穂形成期までの栄養生長期と、幼穂形成期~成熟期までの生殖生長期に分け、それぞれの平均遺伝子発現レベルを比較した(栄養生長期の平均rpm/生殖生長期の平均rpm)。その結果、葉では比が>2(栄養生長期のほうが発現が2倍を超えて高い)が2941(20.8%)、比が0.5≦(生殖生長期のほうが2倍以上発現が高い)の遺伝子は687(全体の4.9%)存在した。根では、栄養生長期のほうが発現レベルが高いものが3302(20.3%)、生殖生長期で高いものが1681(10.3%)存在した。両器官とも、比が0.5~2の間、すなわち変動が2倍以内の遺伝子数が最も多く、葉では10529(74.4%)、根では11271(69.3%)であった。この結果は、イネの長いライフサイクルにおいて、栄養生長期と生殖生長期で大きく発現レベルを転換させる遺伝子が葉、根ともに30%程度も存在することを示している。 次に外部環境条件との関係を調査した結果、葉、根ともに気温または地温との相関関係が、栄養生長期には正の相関を持つ遺伝子が多かったのに対し、生殖生長期には逆に負または無相関になる遺伝子が増加する興味深い傾向が認められた。栄養生長期には強い正の又負の相関係数を示した遺伝子が、生殖生長期には強い負の相関係数を示すような極端な遺伝子もあり、今後、特徴的な動きを示す遺伝子の抽出と解析を進め、フィールドにおけるイネ遺伝子の気象応答のダイナミズムを明らかにする予定である。
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