研究課題/領域番号 |
18K14458
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
遠藤 直樹 鳥取大学, 農学部, 助教 (20776439)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | S/R比 / 菌根合成 / 比較解析 / 接種区・非接種区 / 葉面積 / 共生 / 分子系統解析 / 宿主特異性 |
研究実績の概要 |
本年度は,ナシ実生を用いたハルシメジの菌根合成と子実体形成に関する投稿論文を発表した.また,ハルシメジ3菌株の菌根形成がナシ無菌実生の成長に及ぼす影響を定量的に評価した.後者は具体的には,菌根合成試験において,ハルシメジ菌株接種区と非接種区を設け,それぞれの区における5ヶ月間養苗後の植物体の成長量を評価した.試験は無菌的に,グロースチャンバー内で行った.ハルシメジ接種区では,いずれのナシ無菌実生もハルシメジの菌根を形成した.3菌株のうち,2菌株の接種区では,非接種区(対照区)と比較して植物体成長に有意差は見られなかった.一方,1菌株の接種区では,非接種区と比較してS/R比(地上部乾燥重量と地下部乾燥重量の比)が有意に大きい値を示した.また,有意差はなかったものの,3菌株いずれにおいても接種区は非接種区と比較して葉面積が大きい傾向にあった.植物体の外見上は,接種区の方が非接種区よりも葉の緑色が濃く,旺盛な生育を示す傾向にあった.以上の結果から,バラ科植物にとってハルシメジは少なくとも無害であり,ハルシメジが共生菌である可能性が示唆された.しかしながら,本年度計画していた安定同位体を用いた試験を実施するには至らず,最終年度に実施し,分子レベルでハルシメジと宿主植物の関係を解析する必要がある.また,ハルシメジの菌根合成と子実体形成に関する投稿論文を発表した際,審査員より,植物体の成長を評価するには養苗期間(5ヶ月間)が短い可能性も指摘されたため,本件についても追加で調査を行う必要性が示唆された.なお,本年度も引き続き,ハルシメジ菌株の分類学的検討を進め,Entoloma sepiumに類似した2系統を区別する判別形質としてステリグマの本数が重要であることを明らかとした.また,ITS領域の分子系統解析で示唆された自然宿主と系統の関係はLSU領域の分子系統解析によっても示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度,ナシ実生を用いたハルシメジの菌根合成と子実体形成に関する投稿論文1編をMycorrhiza誌にて発表することができた.また,接種区および非接種区を用いた菌根合成試験を行い,バラ科植物にとってハルシメジは少なくとも無害であり,ハルシメジが共生菌である可能性も明らかにできた.一方,本年度計画していた安定同位体を用いた試験を実施するには至らなかった.以上の理由から(2)おおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は最終年度となるため,バラ科植物にとってハルシメジが寄生者なのか共生者なのかという問いに決着をつける.具体的には,本研究で計画されており,かつ未実施である安定同位体を用いた試験を実施する.また同様に未実施である植物病原菌を用いた実験も実施する.さらに,2020年度の研究成果である,1菌株の接種区で,非接種区と比較してS/R比(地上部乾燥重量と地下部乾燥重量の比)が有意に大きい値を示したこと,3菌株いずれにおいても接種区は非接種区と比較して葉面積が大きい傾向を示したことについて,論文化を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは,計画していた安定同位体を用いた試験に至らなかったこと,新型コロナウイルスの影響で参加予定であった学会大会2件に参加できなかったために旅費を消化できなかったことが原因である.今後,安定同位体を用いた試験を速やかに開始する.また,新型コロナウイルスの影響で今後も学会大会がWeb開催になるなど,旅費が消化できない状況が続くことが想定されるため,研究を推進するためのアルバイトの雇用や,当初計画にはなかった追加の論文投稿などを行うことによって消化する予定である.
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