リンドウ花弁の光応答着色の制御機構を明らかにするために、本年度までに明・暗処理後の花弁サンプルを用いてRNA-seq解析を行い、フラボノイド生合成の既知転写因子MYB3、およびCHSやCHIなどの構造遺伝子の多くが明条件下で強く発現することを確認した。さらに、明条件下で著しく発現している遺伝子グループの中から、新規遺伝子としてアントシアニン輸送への関与が予想される2種類のグルタチオンS-トランスフェラーゼ(Phi class GST1、Tau class GSTU)を見出した。GST1についてはゲノム編集技術によりノックアウト個体を作出したところ、アントシアニン蓄積の著しい減少と、それにともなう淡い青白色の花色表現型が認められた。この結果から、リンドウにおいて初めてアントシアニン輸送に関与する遺伝子が同定された。 続いて、リンドウ切り花へのLEDを用いた青色光(450 nm)、赤色光(630 nm)、および赤色・青色・緑色(518 nm)の混合による白色光の照射試験を行ない、さらにそれらの花弁サンプルを用いてRNA-seq解析を行なった。予備的に実施したリンゴの果皮やカブの胚軸への光照射試験では主に青色光により顕著な着色誘導が生じていたが、リンドウ花弁では青色光だけでなく赤色光でも着色誘導が生じていた。CHSなどいくつかのフラボノイド蓄積に関連する遺伝子の発現レベルは、赤色光下においてわずかに弱まる傾向が認められた。これらの結果から、リンドウ花弁の光応答着色は、青色光受容体および赤色光受容体の2つの経路を経て生じていると考えられた。
|