農地は、除草剤や耕起など、雑草管理に由来する様々な強い選択圧を受けている。本申請課題は、当初、耕起に対して農地の雑草集団がどのように適応進化しているのかを解明することを目標として研究を行っていた。この目的のため、様々な地域の農地・非農地(都市)の雑草の種子を採取し系統を作出、栽培する中で、農地を受けている最も明確な選択圧は耕起ではないと思いいたった。むしろ、都市の集団と対比したときに、明確に異なる環境条件は「競争の違い」であることに気が付いた。そこで本申請課題では、計画を微修正し、都市との農地の雑草集団で、どのように競争の程度が異なり、それがどのような適応進化を生み出しているかを解明することとした。 代表的な雑草であるメヒシバをモデルとして、都市と農地のメヒシバ系統を作出、同一条件下で栽培し形質を比較することで、競争者に対する現在進行形の形質進化を検証した。栽培実験の結果、都市と農地で草姿が遺伝的に分化しており、都市個体は匍匐型を農地個体は直立型の草姿を持つ傾向があることがわかった。競争を模した栽培実験により、高い競争環境では直立型が有利に、低い競争環境では匍匐型が有利になることが示された。最後に、圃場実験とドローン空撮によって、農地に適応した直立型個体は、ロータリー耕による雑草防除に耐性があることがわかった。直立型の個体は太い茎を持つため、ロータリーで切断されにくかったためだと考えられる。これらの結果は、メヒシバは農地と都市という異なる競争環境に草姿を変化させることで迅速に適応しており、農地で生じた進化が副次的に雑草防除効率に影響したことを示唆している。また都市と農地の対比は、生物の急速な進化を研究するのに良いモデルとなることを示した。そこで、今後は、この枠組みを発展させる形で、メヒシバだけでなく、様々な雑草群集における様々な形質の適応進化の研究を行う予定である。
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