研究課題/領域番号 |
18K14467
|
研究機関 | 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター |
研究代表者 |
柏 毅 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 生物資源・利用領域, 任期付研究員 (60766400)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 二次代謝 / 糸状菌 / 植物-微生物相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究では、植物病原糸状菌ゲノム中から二次代謝産物の生合成酵素遺伝子を探索し、遺伝子発現プロモーターの改変等を実施することで、生産される二次代謝産物の機能を推定するための手法を検討している。 昨年度までに、ゲノムシーケンスがすでに公開されているモデル植物病原菌のイネいもち病菌を対象として研究を進めてきた。具体的には、ゲノム中に存在する二次代謝産物の生合成酵素遺伝子に関して、プロモーターを改変して代謝産物の生産時期を変更すれば、代謝産物の持つ生物活性を解析できることを示した。 今年度は、非モデル植物病原菌にも本手法が応用可能かを検討した。まず、完全なゲノムシーケンスが明らかになっていない植物病原菌として、ダイズを宿主とする糸状菌を対象とした。本病原菌のゲノムシーケンスを明らかにするため、ダイズ病原菌を国内および国外から収集した。その過程で、分離された地域によって菌株の病原性に変化が見られることが示唆された。植物病原菌が生産する二次代謝産物には病原性に関与するものがあり、これら菌株間で病原性に関わる因子群の生産性が変化していることが推定された。その確認のため、収集した菌株を用いて複数のダイズ品種への接種試験を実施し、病原性を比較した。ダイズに対する病原性に差異が認められた複数の菌株のゲノムシーケンスを取得し、その塩基配列の解析を進めた。その結果、菌株ごとにゲノムの大きな違いは見られないものの、一部領域の変異等が推定された。 今後は、新たに取得したダイズ病原菌のゲノムシーケンスから、二次代謝産物の生合成酵素遺伝子等の探索を進める。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに、モデル植物病原菌であるイネいもち病菌を用いて、遺伝子発現時期を改変する手法を検討してきた。今年度は、本手法を非モデル植物病原菌であるダイズ病原菌に応用することを目的として、ダイズ病原菌の比較ゲノム解析を進めた。この際、病原性が異なる菌株を特定し、解析対象とすることを目的として、80程度のダイズ品種に病原菌株を接種し、病原性を比較した。海外からのダイズ病原菌の輸入に際し想定以上の時間がかかったものの、ダイズ品種群に対する病原性が異なる菌株の組み合わせを特定でき、かつ、ゲノムシーケンスの比較から、これら菌株にはゲノム中の一部領域に変異があることが推定された。 今後は、取得したダイズ病原菌のゲノムシーケンスから二次代謝産物の生合成酵素遺伝子を推定し、その機能解析を実施していく。
|
今後の研究の推進方策 |
ダイズ病原菌のゲノムシーケンスから、二次代謝産物の生合成酵素遺伝子を探索する。病原性が異なるダイズ病原菌株のゲノムシーケンスを複数取得しているため、次年度はまず、各菌株のゲノム配列を比較した後に、二次代謝産物の生合成酵素遺伝子をゲノムシーケンスから予測する。 イネいもち病菌と同様に、ダイズ病原菌でも二次代謝産物の生合成酵素遺伝子の発現様式を改変し、生物活性を調査できるか検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ダイズ病原菌のゲノムマイニングを実施するに当たり、ダイズ病原菌株を国内外から収集したところ、菌株によってダイズに対する病原性が異なることが示唆された。これを受けて今年度は、病原性の異なる菌株を特定してからゲノムシーケンスを実施したため、ゲノムシーケンスに供する菌株数を限定でき、シーケンスにかかる費用を削減できた。未使用の予算は、得られたゲノムシーケンスデータを用いて二次代謝産物のマイニングを実施するための分子生物学実験用キット等の消耗品費に使用する予定である。 また、イネいもち病菌およびダイズ病原菌の研究成果を報告するための論文投稿費用、学会参加費用に使用する予定である。
|