研究課題
紋枯病はイネ科植物の重要病害である。研究代表者らは、植物ホルモンであるサリチル酸(SA)がイネとその近縁のミナトカモジグサに紋枯病抵抗性を誘導することを見出した。本研究では、SA依存的な植物の紋枯病抵抗性機構の分子基盤を明らかにすることを目的とする。NPR1は、シロイヌナズナのSAシグナル経路の正の調節因子である。研究代表者らは、ゲノム情報を利用したシンテニーと相同性の解析からミナトカモジグサにおけるNPR1ファミリー遺伝子群を同定した。これらの形質転換体を用いた解析により、本植物のSA依存的な遺伝子発現を正に調節するNPR1ファミリー遺伝子を明らかにした。ミナトカモジグサには系統特異的な紋枯病抵抗性が存在する。この実体を明らかにするために菌感染過程における時系列比較トランスクリプトーム解析を行った。この結果、抵抗性系統のBd3-1とTek-3では、WRKY転写因子によって制御される防御応答遺伝子が罹病性系統のBd21と比べて速やかに発現誘導されることが明らかとなった。BdWRKY38はSA誘導性であり、抵抗性系統の遺伝子制御ネットワークで特異的にハブを構成していた。Bd3-1背景におけるRNAiラインの解析から、BdWRKY38は系統特異的な紋枯病抵抗性に必要であることを明らかにした。また、SA分解酵素の強発現によってもBd3-1の紋枯病抵抗性が低下することがわかった。以上の結果から、ミナトカモジグサにおける系統特異的な紋枯病抵抗性はSA依存的であり、BdWRKY38はSAシグナル経路の下流で抵抗性の主要な調節因子として機能することが示された。免疫応答の速やかな活性化による感染阻止とSA依存的な病害抵抗性は、非親和性病原菌に対する宿主植物の応答性と類似している。本研究の結果は、広範な宿主域を持つ殺生菌である紋枯病菌に対しても非親和性の抵抗性反応が起こりえることを示唆する。
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