エネルギーフリー長期安定保存技術の開発に向けて、ネムリユスリカの乾燥耐性能は長らく注目を浴びてきた。しかしながら、その乾燥耐性メカニズムの分子基盤は全く不明であった。そこで、申請者は、乾燥耐性能を持つ唯一の動物細胞株であるPv11細胞を用いて、検討を行った。まず、Pv11細胞においてCRISPR/Cas9システムを用いたゲノムワイドスクリーニング実験系の構築を試みた。その過程でPv11細胞において、乾燥耐性能が誘導される際に必要なシグナル経路および転写因子を同定できた。Pv11細胞をトレハロースで処理すると、細胞内カルシウムイオン濃度が一過性に上昇し、5分以内に元に戻ることが観察された。そこで、細胞内のカルシウム・シグナリング経路の阻害剤を使い、乾燥耐性能が低下するかを検討した。その結果、「Calmodulin - Calcineurin - NFAT」および「Calmodulin - Calmodulin-dependent kinase - CREB」の両方の経路が乾燥耐性能の誘導に必要であることが判明した。興味深いことに、「Calmodulin - Calcineurin - NFAT」の経路を阻害することで、トレハロース処理中の生存率が低下した。このことから、「Calmodulin - Calcineurin - NFAT」の経路は、乾燥耐性能の誘導のみならず、トレハロース処理中の生存にも寄与していることがわかった。 さらに、乾燥耐性能、特に再水和時に寄与する新規トレハローストランスポーターも同定した。当該遺伝子のノックアウト細胞を樹立し、乾燥―再水和実験を行ったところ、生存率が低下していた。 以上のように、本研究課題によって、乾燥耐性能に寄与する新規因子を複数個同定することができた。
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