2020年度は、カミキリムシ科昆虫について、引き続きハナカミキリ亜科メス成虫を対象に日本各地でより網羅的にサンプリングし、酵母の分離を行った。新たに供試したハナカミキリ27属31種のうち、22種より酵母が分離され、それらはいずれも木質を構成する難消化性成分キシロースを分解可能な酵母であった。2018、2019年度と同様、酵母は産卵管に近接する嚢状器官より得られた。 酵母を持たない種は、小型の嚢状器官を持つ場合と、顕著に発達した嚢状器官を有する場合があった。酵母をもつ種の嚢状器官は、その中間の発達の程度であった。これらのことから、ハナカミキリ亜科の多くの種が酵母と消化共生にあることが示唆された。共生酵母はハナカミキリの食性と関係していた。材食性ハナカミキリが保有する酵母は樹皮食性ハナカミキリの共生酵母と大きく異なり、共生の起源が異なることが示唆された。今後、ハナカミキリと酵母の共生系の進化プロセスの解明について、系統学的視点での研究が課題である。 ニホンホホビロコメツキモドキについて、メス成虫は、すでに産卵痕のあるタケ節間への産卵を忌避することを明らかにした。ただし、産卵直後の産卵痕の場合、産卵忌避の程度は弱かった。これらのことから、重複産卵が生じる場合に、共生酵母が重複接種される可能性が考えられた。 新たに、酵母との共生関係が知られる材食性のツツシンクイムシ科昆虫について、メス成虫の菌共生器官マイカンギアより酵母を分離し、木材関連糖類に対する資化性を調べた。その結果、複数種の酵母が分離され、資化できる糖類は種ごとに異なった。複数の酵母と共生することで、材からの効率の良い栄養摂取を実現している可能性が示唆された。
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