研究課題/領域番号 |
18K14477
|
研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
杉本 貴史 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 契約研究員 (20726707)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ボルバキア / 生殖操作 / 共生細菌 / アズキノメイガ / 性転換 / 性決定 / オス殺し |
研究実績の概要 |
共生細菌ボルバキアは、宿主の生殖を操作することによって繁栄を勝ち取っている。なかでも、宿主のオスのみを選択的に殺す“オス殺し”は、もっとも一般的な生殖操作として知られるが、そのメカニズムの詳細はわかっていない。 本申請課題の1年目では、まず、アズキノメイガの雌雄それぞれに由来する培養細胞系にボルバキアを感染させる実験を行い、オス由来の培養細胞においてメス型のOsdsxF発現の誘導に成功した。この時、オス型のOsdsxM発現は完全に消失したが、この感染培養細胞から抗生物質処理によりボルバキアを除去したところ、オス型OsdsxMが再出現した。 次に、これらのオス由来の初代培養系においてボルバキアを感染させることで発現が変動する遺伝子について、トランスクリプトーム解析(RNA-Seq)による、coding及びnon-codingの各発現遺伝子情報を網羅的に解析した。その結果、Osmascと相互作用する可能性のあるnon-coding RNAの候補配列は見出されず、Osmasc自体もボルバキア感染によって大きな変動を示さなかった。そこで、ボルバキア感染によって発現の変動が見られた候補遺伝子をスクリーニングし、定量PCRによる詳細な発現解析を進めたところ、感染によって発現が大きく低下する新規候補遺伝子を見いだすことに成功した。現在、この遺伝子を新規生殖操作関連遺伝子候補として、遺伝子解析系の構築を進めている。 また、宿主側の遺伝子と相互作用するボルバキア側遺伝子の探索に向け、ボルバキアゲノムの解析を進めたところ、ほぼ全長に当たると想定される約1.2Mbのゲノム領域の獲得に成功した。スキャフォルド数も64まで絞り込んだ。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初想定されていたアズキノメイガ側のオス殺し関連遺伝子候補が、ボルバキアによる生殖操作のターゲットとして重要な遺伝子とは位置付けられない可能性が示されるなど、着実に研究を進めた結果、想定とは異なる状況が明らかとなってきた。そのような状況下、当初の計画通り、トランスクリプトームデータの取得・解析、ボルバキアゲノムデータの解析、培養細胞系を用いたボルバキアによる影響の解析を進め、培養細胞においてボルバキアによる生殖操作の再現に成功し、その培養細胞を用いて新規の生殖操作候補遺伝子を絞り込むに至るなど、研究は順調に進捗している。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目は、培養細胞における遺伝子導入系を確立し、絞り込んだ宿主側の生殖操作候補遺伝子が、実際に性転換の誘導に寄与するか否かを確認する。また、RNAi等のloss of functionによる解析系を確立し、生殖操作候補遺伝子のさらなる絞り込みを進める。そして、絞り込んだ遺伝子について、ボルバキアとの相互作用の有無や、その影響を評価し、必要に応じてChip-seqなどの技術も検討しつつ、ボルバキア側が持つオス殺し遺伝子の特定に向けて解析を進める。 培養細胞を用いた解析と並行して、絞り込んだ候補遺伝子の解析をvivoでも行えるよう、アズキノメイガの卵や虫体を用いた遺伝子導入や遺伝子ノックダウンの系の確立を進め、オス殺しに関する分子作用機構の全容解明に向けた実験系を構築する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
これまでに得られた結果を勘案した結果、2年目にChip-seq等の高度な解析が必要であると判断された。そこで、次年度使用額を大きくする必要が生じた。また、勤務先の規約により出張旅費や学会参加費が研究費から支出できないため、旅費がゼロとなっている。これについては、当初の計画が変更になったわけではなく、私費および国際学会へのscholorship申請により資金を確保し、予定通りに遂行した。
|