研究実績の概要 |
共生細菌ボルバキアによって、昆虫宿主のオスのみが選択的に殺される現象である“オス殺し”現象は、非常に一般的な生殖操作として知られる一方、そのメカニズムについての詳細は宿主側、共生細菌側ともにわかっていなかった。 本申請課題の2年目では、雌雄それぞれに由来するアズキノメイガ培養細胞にボルバキアを人工的に感染させたものをサンプルとして、次世代シーケンサを用いた大規模トランスクリプトーム解析を行った。その結果、6つの遺伝子領域(G21680-G21683, G21685, G31871)がボルバキア感染によって大きく変動することがわかった。具体的には、G21680およびG21681, G21862の3つの遺伝子領域が感染によって有意に発現が亢進され、G21863, G21865, G31871の3つの遺伝子領域では抑制されていた。これらのうちG21680およびG31871はそれぞれカイコガで既知の性決定関連遺伝子との高い相同性が確認された。また、近縁種アワノメイガのゲノム情報との比較から、G21681-G21683, G21685の領域については、性決定遺伝子と想定されるG21680のC末側に隣接して存在すると推定された。 これらの領域それぞれについて、胚発生初期から成虫期までステージを追って詳細に遺伝子発現解析を行ったところ、2つの性決定関連遺伝子候補G21680およびG31871は産卵直後(0時間胚)から発現が示された。一方、G21683のみで胚発生初期に発現が開始され(0-12時間胚の間)、その他については胚発生初期における発現は確認されなかった。これらの結果から、ボルバキアによって影響を受ける宿主側の因子を3つまで絞り込むことに成功した。特に、産卵後の早い段階で発現が開始され、ボルバキア感染によって発現抑制を受けるG21683を最有力候補として、解析を進めている。
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