研究課題/領域番号 |
18K14481
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
中尾 遼平 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教(特命) (10814618)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | メダカ / 環境DNA / 国内外来種 / 保全 |
研究実績の概要 |
近年、メダカ種群では人工改良品種の「ヒメダカ」の放流による遺伝的撹乱が生じており、遺伝的多様性の均質化や喪失が各地で危惧されている。ヒメダカによる遺伝的撹乱の有無は外見上判別できないことから、従来、DNAマーカーを用いた遺伝解析手法が用いられてきた。しかし、従来法は体組織をサンプルとして用いることから侵襲的であり、外来遺伝子の頻度増減など長期的な現象を追っていくうえでの大きな制約となる。またメダカは絶滅危惧種であることから、個体および集団の存続に負の影響をあたえる調査は可能な限り控える必要がある。そこで本研究では、環境DNA手法を用いたメダカ種群における外来遺伝子の検出手法の確立を目的とした。本手法は、環境サンプルの採取だけでよいことから非破壊的および非侵襲的であり、近年生物のモニタリング手法として注目されている。本研究では、2018年度に引き続き野生メダカおよびヒメダカ用の環境DNA検出系の開発と奈良県大和川水系における2年目の採水調査を実施した。2018年度の検出系開発では、対象種の非特異的な増幅が確認されたため、2019年度は新たに検出系の開発を行った。2019年度では、環境DNA手法として野生メダカとヒメダカをそれぞれ特異的に検出できるプライマープローブを設計、開発できた。また、2019年4月から2020年2月にかけて、2018年度と同様の12地点で採水調査を実施し、132サンプルを得た。一方で2018年度に採水調査を行っていた東京都多摩川水系の支流については、下流から上流にかけて河川改修工事が開始されたことから、2019年度の採水調査を中断した。現在、開発した検出系を用いて、2018年度に採水した水槽実験サンプルおよび2018年度のサンプルより、順次解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度では、(1)メダカとヒメダカを検出するための環境DNAマーカーの改良、(2)奈良県における2年目の環境水サンプルの採集を行った。(1)では、昨年度開発した検出系に非特異的な検出が確認されたことから、検出系の改良を行った。検出系では、組織サンプルと水槽サンプルともに良好な増幅産物が得られた。水槽サンプルでは、野生メダカとヒメダカの混合比率を変化させた水槽を用意し、それぞれの水槽に対して検出系を適用したところ、野生メダカのみ、ヒメダカのみの水槽ではそれぞれの種のみが、混合した水槽では2品種のDNAが検出された。一方で、個体の混合比率に応じた定量にはばらつきがみられ、検出系の特性によるものか、水槽実験の操作中の影響かは不明である。そのため、水槽実験を再度行い、再検討する予定である。(2)において、奈良県大和川水系の12地点では2019年度も継続して採水調査を実施し、4月から2020年2月までの132サンプルを得た。一方で、2018年2月頃から東京都多摩川水系の支流では河川改修工事が開始されていたため、こちらでの採水調査は中断した。これらのサンプルについては、2018年度のものから、順次DNA抽出と環境DNA分析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度行った検出系の改良の結果、野生メダカとヒメダカの種特異的な検出が可能となった。一方で、環境DNA濃度の定量には一部課題が残ったことから、簡易的な水槽実験を行い、2品種のアバンダンスとの対応について検討する。また、これまでに調査を行ってきた奈良県大和川水系および東京都多摩川水系のサンプルを環境DNA分析にかけていくことで、それぞれの水系における環境DNA量の変化やそれに伴う季節的な変動をトレースしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度では、東京都多摩川水系の調査を中断したことにより、一部の調査旅費を環境DNA分析手法の開発へと置き換えた。その際に必要な旅費や謝金等の一部が余剰分として生じたため、これらを2020年度の次年度使用額として算出した。これらの余剰分は,PCR分析試薬等の実験消耗品の購入費として用いる予定である。
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