研究課題/領域番号 |
18K14482
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
小山 彰彦 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 特別研究員(SPD・PD・RPD) (50814662)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 干潟 / 砂浜 / カブトガニ / 汽水域 / 保全 |
研究実績の概要 |
本課題では,福岡県を対象に,絶滅の危機に瀕するカブトガニの保全・再生手法の確立を目的とした研究を実施する.本課題は福岡県の3地域(今津・津屋崎・曽根)を対象として,3年間で遂行する予定である.本年度は,津屋崎において,幼体の生息適地面積の推定を試みたほか,津屋崎と曽根にて環境DNA分析を用いた産卵場の推定を目的とした予備調査を実施した. 津屋崎においては,幼体の生息する津屋崎入江奥部(約22 ha)を対象地として,2018年5~8月にかけてカブトガニの分布調査を行い,本種が確認された地点の位置情報と標高をRTK-GPSにて測量した.また,同年11月にドローンを用いて対象地の空撮を行った.そして,空撮画像から1ピクセル20 cmの数値標高モデルを作成した.また,構築した数値標高モデルから対象地の傾斜角を算出した.調査によって得られた本種の分布情報(在・不在)と環境情報(標高と傾斜角)から良好な予測精度の生息適地モデルを構築することができた.この結果は,少なくとも津屋崎においては,空撮画像から構築された標高と傾斜角から,本種の生息適地を推定できることが示唆された.また,対象地22 haに生息適地モデルを当てはめた結果,本種の生息適地面積は約9 haであると推定された. 曽根においては,2018年の5月~8月,および11月の大潮の満潮前後1時間,既存の調査によって報告されているカブトガニの産卵場にて1Lの環境水を採取した.また,採水した場所では,産卵の有無,および産卵ペア数を可能な限り記録した.採取した環境水はろ過した後に,DNAの抽出を行った.カブトガニの環境DNA用のプライマーを作成し,予備的に定量PCRを実施した結果,実際に産卵ペアを確認できた場では標的領域の増幅が確認された.つまり,本調査によって採水によってカブトガニの産卵の有無を確認できることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3地域で幼体・成体を対象とした2つの研究を実施する.津屋崎における幼体調査では,小型ドローンによる写真測量のデータから,高精度の生息適地モデルを構築することができ,当初の計画よりも進展している.そのため,天候と潮の干満の日時によってドローンによる空撮が可能な日が限定される点,また,写真合成の条件などの課題を最終年度に検討する予定であったが,次年度に前倒すことが可能となった. 成体の産卵場を対象とした環境DNA分析は,当初の予定では,現地の産卵ペア数と環境水のDNA量の関係を解析する予定であったが,実作業としては予備的なDNA分析のみとなった.これは,環境DNA分析は初作成したプライマーによるPCR産物由来と思われるコンタミネーションが発生し,分析環境の調整に時間を要したためである.なお,この問題は,プライマーを設計し直し,分析環境を整備することで解決した.以上のことから,本年度で達成できなかった作業はサンプルの分析のみとなっている.したがって,未達成の部分もあるが,全体の研究の進捗状況はおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
3地域のうち,次年度は,幼体の調査地として津屋崎と今津を予定している.それぞれの地域において,写真測量と幼体の分布調査を行い,今津では生息適地モデルの構築を試みる.津屋崎においては,前年度の調査に加えて,構築したモデルの精度検証を目的とした野外調査を実施する.調査は主に幼体が活動する5月から8月を中心に行うが,場合によっては9月以降も幼体の調査,あるいは写真測量を行う.また,写真測量では,干潟の地盤高と傾斜については面的に数値評価が可能であるが,底生生物の分布を規定する要因の1つである底質については,十分な評価ができていない.そこで,現地の底質の粒度分析を行い,底質の条件について面的に評価が可能かを検討する予定である. 成体を対象とした環境DNA調査は今津と曽根を対象とする.可能であれば,津屋崎においても採水作業を行う.前年度達成できなかった,各地域の産卵ペア数と環境水中のDNA量の関係を解析する.
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