本課題では,福岡県を対象に,絶滅の危機に瀕するカブトガニの保全・再生手法の確立を目的とした研究を実施する.本課題は福岡県の3地域(今津・津屋崎・曽根)を対象として,本種の幼体と成体それぞれの生息状況の評価を試みた. カブトガニの幼体は主に干潟域に生息する.本種の幼体については,津屋崎と今津の2地域で生息適地面積の推定を目的とした研究を実施した.2018年度から2019年度にかけて津屋崎で集積したカブトガニ幼体の分布データ,および小型ドローンを用いた写真測量データを用いて,生息適地モデルを構築した.結果,写真測量から得られた地盤高(標高)と傾斜から本種幼体の適地を良好な精度で予測することができた.さらに,同様の幼体の分布調査,および写真測量を今津で実施し,津屋崎で構築した生息適地モデルが今津でも適用できるのかを検証した結果,今津においても良好な予測精度を示した.よって,本研究からドローンによる広範囲の写真測量データをカブトガニのような干潟域に生息する希少生物の分布予測に有効であることが示唆された. カブトガニの成体は主に海域に生息するが,産卵期には雌雄のペアで接岸し産卵する.本種の成体については,曽根において環境DNAを用いた研究を実施した. 2019年度と2020年度の本種の産卵期に,曽根の主要産卵場の数か所において環境DNA用の採水と産卵の目視調査を行った.定量PCRによって各採水試料のDNA濃度を定量評価した.結果,野外にて産卵ペアを確認できた産卵場の多くでは本種のDNAの増幅が確認された.一方,産卵の未確認地点ではDNAは未検出,あるいは極少量のみ観測された.さらに,推定された産卵ペア数と環境DNA濃度には有意な正の相関が認められた.これらの結果から,環境水中の本種のDNAの濃度に基づいて,産卵のために来砂したカブトガニ成体の数を評価できる可能性が示唆された.
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