本課題では、春に花を咲かせ、夏以降は地下部のみで過ごす生活史を示す、ユリ科の春植物であるコバイモ類およびアマナを対象に、球根における代謝産物の季節変動を明らかにするとともに、外発的な糖質や脂質の処理を用いた栽培管理技術の開発を目的として研究を進めた。代謝成分の解析についてはCE-TOFMSを用いて、6、10、2月のコバイモ球根を用いた網羅的な成分解析を行った。結果として、発芽直後の2月では、6月や10月と比較して、セリンやリシンなどの脂質代謝関連のアミノ酸が増加するとともに、中心炭素代謝に関わるグルコース6-リン酸やリブロース5-リン酸の変動が見られた。また、コバイモおよびアマナにおいて、発芽前後(10月から1月)の代謝成分変動をGC-MSを用いた糖質およびアミノ酸に関わる分析系を用いて調査した。その結果、スクロース、フルクトースおよびグルコースにおいて、量的な変動が特に大きく見られた。栽培試験における外発的な処理としては、グルコース、スクロース、およびグリセロール処理を実施した。2017年から2018年の試験では、スクロース処理によって種子では発芽時期の早期化が見られたが、球根では差異は見られなかった。一方、翌年以降に継続して実施した栽培試験では、結果の変動が大きく、スクロース処理の効果を明確に示すことは出来なかった。この結果から、スクロース処理は環境的な要因でその効果の程度が変動することが示された。一方、グルコース処理は、種子の発芽率を減少させることが明らかになった。本研究から、ユリ科春植物の発芽時期となる10月から2月における糖質処理が生育に影響を及ぼすことは明らかになったが、その効果については、更なる継続した栽培試験で明確に示す必要がある。
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