本研究の目的は、自然体験に利用されやすい身近な自然の特質を都市間比較を踏まえて解明することである。これにより優先的に保全管理すべき身近な自然の適地選定計画論の発展に貢献する。研究には主に、人の行動や意識に関するデータに空間解析を組み合わせて進める。 2021年度はまず、携帯電話ビッグデータを用いた都市の自然体験の把握に関する方法論的な検討を行った。その結果、特に都心部の緑地ではGPS誤差の影響を受けやすいこと、ある程度の規模の自然環境でないと利用状況の把握が困難であることが確認できた。また、視覚的に自然を体験することから人々が感じる印象について、首都圏内の事例地区を対象に、緑被以外の要素との相補的な関係性に着目した調査分析について、昨年度からさらに発展させた分析を行った。その結果、視野内の空や人工物の占める割合によって、緑被が与える印象が異なる傾向が確認できた。さらに、昨年度に実施した都市域の昆虫の鳴き声に関する自然体験頻度に関する調査結果の分析を行い、野外調査で確認された種が必ずしも住民が認知している種と一致しないこと、野外での生息以外の生物知識などの多様な個人属性が鳴き声の体験に影響していることを明らかにした。 本研究期間中に発生した新型コロナウィルス感染症の影響によって当初想定したとおりに「日常的な自然体験」を評価することが困難になり、大幅な計画変更が必要となった。計画変更後の展開も含めた本研究期間の成果として、都市域の身近な自然について、視覚や聴覚による体験の観点や、携帯電話ビッグデータの利用の観点から、新しい自然体験分析の方法論を提起し、検証することができたことがあげられる。
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