現在、国策的なインバウンド観光の推進の手段として国立公園が位置付けられる中で、国立公園の方向性の転換が生じている。インバウンド観光への対応の円滑化のためにも国立公園とはどういった制度・空間であるのかというアイデンティティーが問われる。本研究は、日本の国立公園のアイデンティティー獲得を大きな狙いとした造園史研究であり、国立公園やその計画思想はどういった社会関係のもとに構築されてきたのかを史資料による歴史的分析を通じて明らかにするものである。 本年度は、国立公園法制定後の国立公園の区域指定や施設計画などの実体化の局面において人為が介入しない原生自然型を理想とするアメリカ型の国立公園の理念と、日本の国情という実際のズレがどれほどであったのか、そのズレに従って理念や計画思想がどのように修正されていったのかの検討を試みた。この観点から、国立公園内で面積が大きく、牧畜などが営まれていた「原野」に着目しその対応を検討したが、国立公園の理念とのズレは認識されつつも、「原野」自体の景観的価値も認識の上、現実的に対応可能な問題として認識されており、1930年代前半においては、国立公園の計画思想を巡った深刻な問題となっていなかったことを明らかとした。このように、1930年代前半の国立公園の実体化の局面に於いては、アメリカ型の国立公園を普遍的な国立公園のモデルとしながら、日本での国立公園の実現を目指しており、日本固有の歴史文化的資源の重視されていなかったことを明らかとした。
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