研究実績の概要 |
サクラ属の雑種不和合性に関与する遺伝子および分子メカニズムを明らかにすることを目的に、健全な実生および生育不全の実生においてRNA-seqを行い、発現遺伝子の網羅的解析(トランスクリプトーム)を行った。解析からは、生育不全となったサクラ属の雑種実生では、病原体に対する防御反応に関する遺伝子群が過剰発現していることが明らかとなった。特に、pathogenesis-related gene 1 (PR1)と相同性の高い遺伝子やLeucine-rich repeat受容体ドメインを持った遺伝子群などの高発現が、主に実生の胚軸において顕著に見られた。これらの防御反応は、gene onthology(GO)解析においても、生物的刺激に対する反応(GO:0009607, response to biotic stimulus)および防御反応(GO:0006952, defense response)等のGOのエンリッチメントとして示された。さらにGO解析からは、細胞サイクルや細胞の成長や分裂に関与する遺伝子の発現が、生育不全実生の葉(茎頂部位が含まれる)において低下することが示された。これらトランスクリプトームでみられた遺伝子発現の傾向は、RT-qPCRにおいても確認された。以上の結果から、サクラ属における雑種実生の生育不全は、防御関連の遺伝子の過剰発現により茎頂分裂組織を含む主軸の成長が妨げられることで引き起こされたと考察した。
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