研究課題
本研究の目的は、ニホンザルによる昆虫食が枯死木分解速度にあたえる影響を解明することである。そのために、「研究①サルがどのような特性をもつ枯死木を壊すのか」「研究②サルはいつ、なぜ枯死木を壊すのか」「研究③サルはどれくらい枯死木を壊すのか」を研究課題として設定した。それぞれの課題のために、以下の調査が必要である。研究①では、サルの行動観察および森林内の枯死木・昆虫群集の調査を行う。研究②では、サルの行動観察および森林内の果実量・昆虫群集の調査を行い、サルがどのような季節に枯死木を破壊するのかを調べる。また、サルの採食行動と食物の栄養成分を分析し、昆虫がサルの栄養摂取にどれくらい貢献しているのかを調べる。研究③では、枯死木のバイオマス計測と自動撮影カメラを用いたサルの行動調査により、サルの訪問の有無と材のバイオマス減少の関係を調べる。また、屋久島島内 3 ヶ所に調査区を設営し、枯死木放置実験を行うことで、サルの枯死木訪問頻度、気象要因、土壌要因が枯死木分解速度にあたえる影響を調べる。2018 年度は以下の 2 つの調査を実施した。研究①に関連して、枯死木に生息する昆虫群集の調査を実施した。屋久島に生息するニホンザルによる採食が報告されている種をふくめ、枯死木に生息する昆虫群集のデータを得ることができた。研究③に関連して、屋久島西部林道に枯死木調査区を設置し、枯死木バイオマスのモニタリングと自動撮影カメラを用いた動物調査を開始した。どんな動物が枯死木を訪問しているか、また破壊しているかについてのデータを得ることができており、現在も継続中である。計画段階では屋久島全島に調査区を設置することを予定していたが、交付額の都合で調査地を西部林道に限定することとした。不十分な規模の調査区を多数設置するよりも、1 ヶ所でロバストな結果を得るほうが研究費を有効に使えると考えたためである。
3: やや遅れている
研究代表者の異動に伴い、野外調査を実施できる期間が大きく短縮されたことにより、2018 年度の調査を予定通り行うことが非常に困難であった。そのため、ニホンザルの行動観察は次年度以降に行うこととし、結果が得られるまで時間がかかると予想される枯死木バイオマスのモニタリングのための調査区設置を優先して行った。また、枯死木バイオマスの評価方法について、先行研究で用いられていた方法をそのまま適用することが困難であることがわかった。材の一部をドリルで採取し重量を測定することで縦断的に材密度の変化を調べる予定であったが、ニホンザルが破壊する材はやわらかく空隙が多いため、予定していた方法では正確に材密度の変化をとらえられなかった。そのため、枯死木バイオマスを評価するための妥当かつ客観的な方法を検討することが必要となった。
枯死木バイオマスのモニタリングと自動撮影カメラを用いた動物調査を継続する。とくに、写真やレーザーを用いて作成した 3D モデルから材の体積や表面積を計算する方法を検討するなど、枯死木バイオマスの評価方法を確立するとともに、枯死木調査区の数を増やす。冬から初春にかけては野外調査に費やす時間を確保できるので、ニホンザルの行動観察およびそれに関連した森林のデータ収集を実施する。枯死木破壊行動をふくむニホンザルの採食行動のデータおよび森林内の果実量調査を開始するとともに、森林内の枯死木現存量調査を可能な限り進める。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (4件)
Primates
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