本研究の目的は、ニホンザルによる昆虫食が枯死木分解速度にあたえる影響を解明することである。そのために、「研究①サルがどのような特性をもつ枯死木を壊すのか」「研究②サルはいつ、なぜ枯死木を壊すのか」「研究③サルはどれくらい枯死木を壊すのか」を研究課題として設定した。 本年度は、研究③に関連する枯死木分解実験を継続し、研究①②に関連するサルの行動観察と森林内の枯死木内昆虫群集調査を実施した。2019 年度以降に屋久島・西部林道沿いに設置した枯死木調査プロット 20 箇所において、サル排除実験を継続した。対象の材を複数個に分割し、一方はそのまま放置、他方はサルが破壊できないようにネットで覆った。定期的に材の表面積・体積データおよび自動撮影カメラによる動物行動データの収集を行っている。サルはすべての材を訪問し、ほぼすべてのプロットでそのまま放置した材がサルによって大きく破壊された。また、ニホンザルの行動観察を行い、サルによる枯死木破壊行動のデータを収集した。森林内の枯死木内昆虫群集調査では、分解後期の白色・褐色腐朽材を割って、材内部に生息する節足動物の種と個体数を記録した。サルがよく壊す分解後期の材では、節足動物の種数・バイオマスはともに褐色腐朽材より白色腐朽材で大きい傾向にあった。 今後、追加で収集もしくは分析が必要なデータはあるが、研究期間全体を通して、以下のような成果を得た。屋久島・西部海岸林に生息するニホンザルは分解後期の白色腐朽材をよく壊す傾向にあった。そのような材は森林内に多数存在し、ゴキブリや甲虫(幼虫)など多くの節足動物が生息していた。枯死木分解実験の結果、サルは急激な材の体積減少を引き起こし、細片化された材はシカに踏まれやすくなることがわかった。これらの哺乳類の行動は分解後期における枯死木分解を促進している可能性がある。
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