2022年度は主に、ナラ枯れ防除手法の一つである大量集積型おとり丸太法を事例に、その設置場所を決定するための最適化モデルの構築に取り組んだ。大量集積型おとり丸太法とは、ナラ類等樹木の丸太を集積し、フェロモンを用いてナラ枯れをもたらすカシノナガキクイムシ(カシナガ)を誘引する手法である。被害の多い場所に設置するとより多くのカシナガを誘引できるため、枯死被害の拡散防止と被害規模の縮小が期待できる。モデル化に際して、ある被害木群から距離500 m 以内の場所に少なくとも1つおとり丸太が設置されていれば、その被害木群から羽化したカシナガはそれらのおとり丸太のうちいずれかに誘引されて駆除できるものとみなした。このモデル化に基づき、効率よく防除を行なうためのおとり丸太の設置場所を決定する問題を、できるだけ多くの被害木を被覆するようなおとり丸太の配置を求める問題として定式化した。今回は3つのモデルを検討した。設置場所から半径500mはフェロモン効果が一定のモデルS、Gaussカーネルに従って外側へ行くほどその効果が減衰するモデルG、そして区分線形関数的に減衰するという経験則に基づくモデルPLである。これらのモデルのうちどれが妥当であるかについては、山形県の実データを用いた評価実験で判断した。モデル S、G、PL ともなるべく規模の大きい被害群に近い設置場所候補を選ぶということは共通するが、モデル S からは有効範囲の重複を回避して多くの被害群を被覆する配置、モデル G からは重複を許容して規模の大きい被害群を複数で被覆する配置、モデル PL からはこれらの中間的な配置を得た。そして、モデルPLの結果が最も現実的であると評価した。今後は、より現場に即したモデルへの改良、さらにはこれまで取り組んできた拡散モデル、設置コストや被害コストを考慮した、一貫した病害虫制御システムの構築を目指したい。
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