福島原発事故による幹材(樹幹木部)の長期的な放射性セシウム汚染の個体間差および林分間差を予測することを目指し、天然に分布するアルカリ金属(安定セシウム、ルビジウム、カリウム)の土壌から幹材への移行の多寡を、樹木の肥大成長速度および水利用効率(同じ水消費量でどれだけ光合成できるか)によって説明できるか検証した。 福島県の森林の主要樹種であるスギを対象とし、福島県川内村・大玉村・只見町の約50~60年生の人工林(計4林分)において、各林分15個体から成長錐で幹材コアを採取した。幹材および土壌のアルカリ金属濃度はICP-MSで求めた。また、年輪幅から過去の肥大成長速度を、年輪の炭素安定同位体比から過去の水利用効率を推定した。なお、本年度(最終年度)は、カリウム濃度や年輪の炭素安定同位体比の再測定・追加測定を行うとともに、全期間を通して得られたデータの解析を行なった。 セシウム・ルビジウム・カリウムのいずれの元素についても、土壌から幹材への移行係数(幹材の元素濃度/土壌の元素濃度)と肥大成長速度の間に正の相関が見られた。肥大成長が早いほど幹材のアルカリ金属濃度を希釈する効果が大きいと想定していたが、それよりも光合成に伴う蒸散量(吸水量)の増加によって土壌からのアルカリ金属の吸収が増大する効果の方が大きいことが示唆された。一方、移行係数と水利用効率の間には明確な相関関係は見られなかった。これは水利用効率の個体間差が肥大成長速度に比べると小さかったことが一因だと考えられる。以上より本研究では、アルカリ金属のスギ幹材への移行係数の個体間差を説明する上で、肥大成長速度が重要な変数であることが明らかになった。一方、林分間差は肥大成長速度だけでは十分に説明できなかったため、今後は遺伝的な要因や土壌・地形の要因なども考慮した総合的な解析を行う必要があると考えられる。
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