研究課題/領域番号 |
18K14498
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前田 啓 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (00714883)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 木材腐朽 / 割れ / 密度分布 / 強度分布 |
研究実績の概要 |
本研究は木材の表面や内部の割れの存在が木材腐朽に対してどれだけのリスク要因になりうるかを定量的に明らかにすることを最終的な目標とし、そのための第一歩としてスリットを入れた木材についてスリットの位置や大きさが強度性能に与える影響を明らかにすることを目的としている。 その中で本年度は腐朽菌が木口面から侵入した場合のスリットによる繊維直交方向への腐朽進行促進効果を検討するため、2種類の腐朽試験を実施した。いずれの場合も、試験体は板目板(一部柾目板)とし、スリット部にテープを貼ったうえで、腐朽菌が侵入する木口面の一部を除いた全ての側面についてエポキシ樹脂を複数回塗布することで、腐朽菌が侵入する面を限定させた。はじめの実験では、試験体にはベイマツ材を、培地には寒天培地上に展開したオオウズラタケ培地を用い、試験体が培地と板目面・柾目面がメッシュシートを挟んで接するように腐朽試験を実施した。また2回目の実験では、試験体にはエゾマツ材とスギ辺材を、培地には海砂上に展開したオオウズラタケ培地を用い、試験体が培地と木口面が接するように試験を実施した。この実験ではエゾマツ材のみ培地との間にメッシュシートを挿入した。 得られた腐朽材の密度分布をX線デンシトメトリーで観察したところ、いずれの試験においてもスリットを中心とした重量減少が観察され、スリットを介した繊維直交方向への腐朽進行が観察できた。その一方で、同じ腐朽期間における腐朽進行のばらつきが大きく、スリットによる繊維直交方向への腐朽進行の定量化には至らなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回行った実験においては、以下のような腐朽進行が予測される。まず腐朽菌の侵入面から繊維方向に腐朽が進行するため、この領域ではスリットの有無にかかわらず腐朽菌の侵入面から近いほうが密度が小さいという傾向がみられる。それ以外の領域については、腐朽期間が最大12週間と比較的短かったため、スリットの無い試験体では重量減少が生じない一方で、スリットを含む試験体ではスリットを経由して腐朽菌が侵入するため、スリットを中心とした重量減少が生じると考えら。 実際に得られた腐朽材について、X線デンシトメトリーにより作成した板目面・柾目面内の密度分布を観察したところ、個々の試験体の内部における腐朽は上述した予測と一致しており、スリットを経由した腐朽進行並びにエポキシ樹脂の塗布による腐朽菌の侵入面の限定効果について確認することができた。 その一方で、ベイマツ材・エゾマツ材において腐朽期間ごとの違い以上に試験体ごとの腐朽進行の程度にばらつきが大きく、スリットの存在が腐朽進行に与える影響の定量的な評価には至らなかった。エゾマツ材の試験体で腐朽菌が侵入した気配が見られなかったことから、スギ材においては培地と材の接触具合を向上させるためメッシュシートを用いずに腐朽試験を行ったが、やはり腐朽進行には大きなばらつきが観察された。
|
今後の研究の推進方策 |
現状の最大の課題は、試験体ごとの腐朽進行がより揃うような腐朽試験を実施することである。これまでの腐朽試験においては、一部の試験体で腐朽菌の侵入が見られなかったことから、培地と試験体の間の接触状況が試験体によって異なったことが課題と考えられる。その原因として、試験体が薄かったことと培地の上に試験体を載せる形で実験を行ったことから試験体が傾いていたことが挙げられる。そのため、今後は寒天培地を試験体に載せる形での腐朽試験を実施し、スリットの腐朽促進効果の定量的な評価に取り組む。また本実験では腐朽菌の侵入面と繊維方向でつながる領域以外の含水率が低く、スリットの無い試験体の繊維直交方向への腐朽進行を妨げていた可能性がある。これは試験体側面を封鎖した際の含水率が低かったことと、木口面が封鎖されていて吸湿しにくかったことによると考えられ、今後は腐朽試験前に吸湿処理を行う等の対策を行い、より繊維直交方向の腐朽が生じやすい条件での検討を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、スリットが腐朽進行に与える影響の定量評価において、腐朽材の顕微鏡観察を実施する予定で予算を計上していたが、平成30年度の研究においてはスリットの定量評価実施には至らなかったため、その分の金額が次年度使用額となった。翌年度は、平成30年度の研究において確立した試験方法を用いてスリットの定量評価を行うため、当初申請した腐朽試験や研究発表とあわせて顕微鏡観察実施に必要な機材を導入する。
|