木質構造における木材と合板の釘接合部のせん断性能は,面材張りの構造要素の耐力性能に支配的となるため,せん断性能評価は古くからの関心事であり,膨大な量の試験データが蓄積されている。これまでの試験では,国や機関等によって試験方法が異なることがあった。例えばASTMでは一対の主材と側材を1本の釘で留めた接合部試験体を使用することに対し,JASでは一つの主材と二枚の側材を4本の釘で留めつける試験体が示されている。これらの試験方法の違いが及ぼす影響は明確になっておらず,この研究ではそれらを実験的に確かめた。 これまでの年度で,接合部試験体における,釘本数1本のASTM式と4本のJAS式でのせん断試験結果を比較した。その一方で,変位0.38mm時の荷重P0.38について比較すると,両試験方法で平均値は概ね一致したものの,ばらつきが異なっており,変動係数は前者が16.4%で後者が7.2%であった。また,釘接合部のせん断性能を調べる試験方法として,壁体を用いたものがある。これは日本住宅・木材技術センター発行の書籍に記されているものである。この試験により得られた荷重-変位関係をみると,上記のASTMやJASで得られた結果よりも,おおよそ10mm程度小さい変位で終局に至ることを明らかにした。 最終年度では,このような違いを予測する手法の考案に着手した。小標本理論に基づいて釘複数本使用時から1本使用時の剛性のばらつきを推定することを可能にした。また,統計モデリングにおける座標変換を駆使して,1本使用時から複数本使用時の剛性のばらつきも推定した。今後はさらなる釘本数の試験データを用いて,手法の有用性を検証することが必要である。
|