本研究では、木材の乾燥過程や使用環境で想定される温度・湿度条件の変化が木材の含水率や力学特性に与える影響を明らかにすることを目的としている。 当該年度では、乾燥前処理(蒸煮(乾球温度、湿球温度:95℃、7 h)、および高温セット処理(乾球温度:120℃、湿球温度:90℃、18 h))を行った後、乾燥スケジュールが異なる2条件(A: 乾球温度:90℃、湿球温度:60℃、B: 乾球温度:70℃、湿球温度:50℃)において乾燥を行ったスギ心持ち平角(長さ:4m、断面:225×120 mm)について、材内の応力状態の測定を行った。試験材から作製した短冊状の試験片について、煮沸の前後、および各調湿後の寸法変化から算出したセット量は、乾燥前処理の条件が同じであったにもかかわらず、条件Aにおいて小さいことがわかった。乾燥時の温度条件が高かったことにより、乾燥前処理で木材表面に生じる引張の残留応力が緩和したためと考えられる。 また、乾燥履歴の異なる木材小試験片(スギ5×5×25 mm)の圧縮試験後の破壊形態の分類、およびFT-IRスペクトルの測定を行った。圧縮試験では、ヤング率、強度に対する乾燥履歴の影響はみられなかったが、試験後の試験片側面のせん断破壊の発生率が熱の関与に関係なく増加したことがわかった。前年度のねじり試験の結果と同様に、乾燥履歴によって耐せん断力が低下したと考えられる。FT-IRスペクトルの測定では、熱が関与した試験片においてヘミセルロースに起因する波数域の減衰が認められた。一方で、未処理の試験片に比べて乾燥履歴を受けた試験片では、各波長域におけるピーク幅が狭くなったことがわかった。
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