光合成藻類を細胞内に保持し栄養的に相互依存する「光共生」は,宿主にとって新たな生理機能をもたらし,進化の原動力となる重要な生命現象である.しかし海洋プランクトンにおける光共生は,近年になってメタゲノムを用いた多様性の把握が始まったばかりであり,その実態はほぼ未解明である.そこで本研究では,海洋生態系や物質循環にとって重要なプランクトンである浮遊性有孔虫を対象とし,共生の物的証拠(共生藻遺伝子)と共生活動の証拠(光合成生理)を解析することで,1. どれほどの種が光共生性を持つか(普及度),2. 何と共生するか(パートナーシップ)という基礎情報に加え,3. どのような共生関係か(生理特性)を個体レベルで明らかにすることを目指している. 平成31年度/令和元年度は,「2. 何と共生するか」を明らかにするため,遺伝子実験に着手した.浮遊性有孔虫各個体について,宿主と共生藻の核DNAの配列をサンガー法により決定したほか,次世代シーケンサーを用いた実験を取り入れて共生関係のパートナーシップを特定する解析を行った.これらの解析により,従来知られていなかった新たな共生藻の種類や,宿主-共生藻の特異性を明らかにできている.この共生のパートナーシップに関する結果は,現在データを取りまとめており,論文出版に向けて準備を行っている段階にある. また,成果としては,「1. どれほどの種が光共生性を持つか」に関して,これまでの研究航海で得たデータをまとめた論文が国際誌に掲載されたほか,特定の種における光共生の垂直伝播に関する論文を投稿中である.
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