研究課題
本研究は、大気中の二酸化炭素濃度上昇の緩衝作用を果たしている海洋沿岸域の有機炭素隔離機構において、隔離能力を決定付けるキープロセスと考えられる「有機炭素分解者の制約による溶存態有機物の残存仮説」を検証することを目的とした。具体的には、外洋域で報告されているように、沿岸域においても栄養塩の添加により難分解性溶存態有機炭素の微生物 (細菌) 分解が促進されるのかを実験的に検証した。なお、本実験では既報に従い、150日間暗所で培養した際に残存している有機炭素を難分解性有機炭素と定義した。有明海において採水した海水をろ過して微生物の捕食者を取り除き、栄養塩 (窒素あるいは窒素+リン) を添加した系と何も添加しない系 (無添加系) を準備し、150日間の培養を行った後、溶存態有機炭素の分解量と質的な変化を評価した。その結果、溶存態有機炭素の分解量は各系で有意な違いはみられなかった。一方で、栄養塩添加系でのみタンパク質 (様物質) の顕著な分解がみられた。本実験において有機炭素分解量に有意な差が見られなかったのは、無添加系においてタンパク質以外の有機物が添加系におけるタンパク質分解量と炭素量として同じくらい分解されたためであると考えられる。これらの結果より、溶存態有機物を構成する成分によって、栄養塩添加による微生物分解への影響が異なることが示唆された。本研究において、沿岸域の溶存態有機炭素の微生物分解に対する栄養塩添加の影響の一端が明らかとなり、沿岸域における有機炭素隔離機構の解明に資する成果が得られた。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
Microbes and environments
巻: 35 ページ: -
doi.org/10.1264/jsme2.ME19110
Jurnal of Oceanography
巻: 75 ページ: 299 - 304
doi.org/10.1007/s10872-018-0503-z
水環境学会誌
巻: 42 ページ: 195-200
Plankton and Benthos Research
巻: 14 ページ: 320 - 323
doi: 10.3800/pbr.14.320