研究課題/領域番号 |
18K14512
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
高橋 宏司 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 助教 (70723211)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 学習 / 行動特性 / ストレス / 種苗性 / トレーニング |
研究実績の概要 |
ストレス耐性の高い種苗作りを目指して、日常的な軽度のストレス経験によるストレス耐性の向上効果を検討した。2年目である2019年度は、訓練手法の開発および効果の検討として、ゼブラフィッシュを用いて実験を行った。ストレス処理として追尾処理、浅化処理を行った。各処理について、30日以上の負荷操作を与えた後に、空中暴露ストレス負荷、高温ストレス負荷、高塩分ストレス負荷および輸送ストレス負荷テストを行い、ストレス負荷後の血中グルコースを測定することで魚体にかかっているストレス状態を対照区と比較した。浅化処理については、空中暴露ストレス、高温ストレスおよび高塩分ストレステストで処理区の血中グルコース濃度が対照区よりも低い値を示す傾向がみられたが、輸送ストレスでは対照区においても低い値をしめしたため効果を検出できなかった。一方で、追尾処理では各ストレステストについて処理区のグルコース濃度が対照区よりも低い反復もあったが、処理効果がみられない反復もあり処理効果の再現性が得られなかった。これは、実験に用いた個体群間での特性の違いが影響している可能性があったため、さらなる検討が必要だと考えられた。 また、メダカを用いて他個体が受ける追尾処理の観察によって観察者の行動特性が変わるかどうかの検討をおこなった。その結果、メダカは他個体が追いかけられる様子を観察することで警戒特性が向上する傾向がみられ、自身の経験以外にも他者の観察によって行動特性が変わることが明らかにされた。追尾観察がストレス耐性の獲得におよぼす影響については現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度行ったゼブラフィッシュでの実験から、浅い環境で飼育するストレス処理がストレス耐性を向上させる可能性が示された。これは、当初計画していたものに近い成果であり、魚類のストレス訓練の処理操作として利用できる可能性を示している。浅場での飼育処理は大型水槽にも適用しやすく、さらに様々な魚種で実施できるため、訓練方法として実践可能な手法だといえる。ただし、処理の効果は実験に用いる集団によって効果が異なる傾向はみられていたため、現場への利用を目指す上ではさらなる実験が必要だと考えられる。一方で、追尾処理では期待される効果は得られなかった。浅化処理と追尾処理では魚体にかかるストレスの程度は異なることが予想されるため、ストレス処理操作についてはさらなる検討が必要だと考えられた。一方で、メダカで行った実験から他個体の行動観察によって行動特性の伝播が生じることが明らかにされた。観察による行動特性の伝播は個体の経験なく生じることから、行動を訓練する手法として効率的な手段と考えられる。現時点で明らかにされた警戒特性の伝播は放流種苗の行動改善技術として応用できる可能性がある。また、現在解析中であるストレス耐性についても向上効果が確認された場合、魚体に直接的なストレス負荷を与えずに訓練できるためストレス訓練の手法として極めて効率的な手法になる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していた水産有用種での実施試験については、新型コロナウィルスの影響のため遠隔施設での実験を行う目処がたたなくなってしまったので本年度の実施は難しくなった。そのため、本年度のストレス耐性の向上効果の研究は引き続き実験室で飼育可能な魚種で実施していく。2019年度の結果から、訓練に用いるストレス処理によってストレス耐性の向上効果が異なる可能性が示された。そのため、2020年度はこれまでに効果が確認されている浅環境飼育処理と取り上げ処理、コルチゾール飼料の給餌処理を行って処理の効果を検討する。実験では、与えるストレス処理の程度を変化させて、より効率的な訓練方法の開発を行う。具体的には、取り上げの時間やコルチゾールの添加量の操作を行い、ストレス負荷時にかかるストレス量を操作して処理にかかるストレスを変えてストレス耐性効果の検討をする。これによって、より効率的なストレレス訓練方法を開発することを目的とする。また、実験に供する個体集団によって効果が異なる可能性があったため、遺伝的に近い同系統の集団(ゼブラフィッシュおよび近交系メダカ)を使った実験も実施する。ストレス負荷の操作実験と合わせて行うことで、ストレス訓練の実施の可否や効果的な訓練方法に役立つ知見となることが想定される。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に生じた所属機関の変更に伴い、全体の研究遂行において多大な影響があったため、2019年度での研究完了が難しくなった。そのため、当初2年で計画していた研究を延長する必要があり、2020年度での研究費の使用が求められる。2020年度においては、当初予定した遠隔施設での研究は新型コロナウィルスの影響で難しい状況ではあるが、引き続き所属機関での研究を実施するため、生理分析や行動実験を行う予定であり、これまでに得られた成果の公表に際して、論文制作のための諸経費(英文校閲費や論文掲載費)に使用する。
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