研究実績の概要 |
本研究の目的は、好適環境利用率という指標を導入し、マイワシ・カタクチイワシ資源量変動に対する重要性が指摘される海洋環境変動・仔魚の輸送分散・種間競争の寄与を定量化し、相対評価することである。好適環境利用率は、高成長となる海域に分布する仔魚の割合を表す。成長の早い仔魚は生き残って資源に加入する確率が高いため、この指標は資源量変動に対応する。本研究では、1978年から直近年までを対象に、毎年の資源量が海洋環境変動・仔魚の輸送分散・種間競争からどれだけの影響を受けたかを明らかにするため、8つの工程からなる研究を実施した。 1. 流動場およびプランクトン密度分布データの準備、2. 耳石解析、3. 耳石解析結果に基づく好適な水温・餌環境の設定、4. 好適環境の時空間分布推定、5. 仔魚分布場と好適環境のマッチングによる好適環境利用率の計算、6. 種間競争を考慮した好適環境利用率の再計算、7. 利用率推定の妥当性の確認、8. 利用率経年変動の解析 2020年度までの研究から、マイワシ仔魚の成長に対する好適環境がカタクチイワシ仔魚の成長に対する好適環境と重複する割合、カタクチイワシ仔魚の好適環境がマイワシ仔魚の好適環境と重複する割合を推定することに成功し、前者は後者より小さいことを示した。この結果は、種間競争の働き方が均等ではなくカタクチイワシがよりマイワシの存在の影響を受けやすいことを示唆する。 2021年度は種間競争に関する既往の研究を精査し、本研究の結果を論文にまとめ投稿した(Nishikawa et al., 2022, in press)。本研究の結果は、既往の研究で示唆された日本近海の魚種交替現象においてマイワシが主導的な地位を占めるという仮説を支持するものである。さらに定量化の難しい種間競争に対し、成長に対する好適環境の重複度による定量化という考えを提示することができた。
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