研究課題/領域番号 |
18K14517
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
本郷 悠貴 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 中央水産研究所, 研究員 (20737316)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 水産人工種苗 / 食餌 / メタゲノム / 代謝 |
研究実績の概要 |
水産資源の持続的な利用を目的として、配合餌料を用いて人工種苗を生産し、天然海域に放流するが、その効果は限定的である。放流された種苗は、これまで与えられてきた配合餌料とは異なる天然餌料を摂食し、成長していく必要があるが、天然餌料を摂食しても痩せてしまうものも存在する。これまで、マサバ種苗と天然魚を用いて、腸内細菌のメタゲノム解析を行ったところ、属レベルで多様性に違いが認められた。種苗には天然餌料の消化・吸収を助ける腸内細菌がほとんどいないことを起因とする減耗の可能性が考えられた 。本研究では、消化・吸収に重要な役割を果たす腸内細菌に注目し、複数の栽培重要魚種について、メタゲノム解析により種苗と天然魚における腸内細菌の「多様性」と「遺伝子構成」を比較し、放流初期の減耗に至る原因の一端を考察する。 平成30年度は、(1)餌の質的な違いを考慮したマダイ人工種苗の飼育実験と、(2)トラフグ人工種苗の放流1ヶ月後に天然海域から再採捕された個体と放流せずに1ヶ月配合餌料で飼育した個体を取得できた。これらの個体を用いて、当初メタゲノム解析を行う計画であったが、腸内細菌の「多様性」を比較・検討するべく、まず16SrRNA遺伝子を指標としたアンプリコンシーケンスを実施し、確認した。(1)のマダイ人工種苗の飼育実験について、1ヶ月間、生餌給餌群としてアミ類やイソメを与え、対象区である配合餌料給餌群との腸内細菌叢の比較を行った。結果、分類体系の綱(class)レベルでその存在比に違いが見られた。(2)のトラフグについては、綱の一つ上の分類である門(phylum)レベルでその存在比に違いが見られた。これらの結果は、魚種によっても餌の違いで腸内細菌の多様性が異なること、飼育環境下よりも天然海域で育つ個体の方が、腸内細菌が多様であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度では、当初計画にあった人工種苗と天然個体の腸内細菌の比較で、人工種苗と同じサイズの天然個体が入手しにくいこともあり、計画にあった餌の質的な違いを考慮したマダイ人工種苗の飼育実験に注力し実施した。さらに、幸いなことに神奈川県水産技術センターと水産研究・教育機構 増養殖研究所のご助力で、イラストマー標識のあるトラフグ人工種苗放流後1ヶ月の採捕個体と、同じ生産ロットで放流せずに追加1ヶ月間配合餌料で育てた個体を頂いた。これらの飼育条件の個体から、腸内細菌の「多様性」について16SrRNA遺伝子を指標としたアンプリコンシーケンスが実施でき、餌の違いで腸内細菌の多様性に変化があることを見出した。これらの事から、おおむね計画は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究で、餌の違いによって腸内細菌の多様性に違いが見出された。次年度では、腸内細菌が持つ「遺伝子構成」について、平成30年度で解析したマダイとトラフグの腸内細菌DNAをメタゲノム解析し、遺伝子の取得と構成の比較を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に計画した天然個体の買い入れがなかったことと、メタゲノム解析に用いる次世代シーケンス用の試薬を購入しなかったため、次年度使用額が生じた。次年度では、腸内細菌のメタゲノム解析を行うため、次世代シーケンス用の試薬類を購入する。
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