研究実績の概要 |
本年度では、平成30年度に抽出されたマダイ個体群のDNAより、ショットガンメタゲノムシーケンス用のライブラリーを構築し、次世代シーケンサーによって配列を取得した。また、トラフグについてはライブラリー作成に必要なDNA濃度が得られなかったため、断念した。生餌と配合飼料で飼育されたマダイ個体群から、それぞれ約40万と約28万の遺伝子配列の断片が得られた。これらの配列を翻訳して200アミノ酸以上になる遺伝子断片を抽出すると、それぞれ約45,000と約53,000の遺伝子配列の断片を得た。これらを既存の配列に対して相同検索すると、約0.8%がバクテリアであり、その他は宿主に相同であった。本年度では遺伝子構成の比較を目的にショットガンメタゲノムシーケンスを計画、実施したが、得られたバクテリアの情報量は少なく比較が困難となった。そこで、16S rRNAの情報から代謝経路の推定を行うPICRUSt2というソフトでマダイとトラフグの腸内細菌の代謝経路を推定したところ、マダイでは有意に差がある代謝経路がなかったが、トラフグで有意に差がある代謝経路が56あることが明らかになった。その中でも、グリコーゲン分解経路や乳酸を産生するホモ乳酸発酵経路などが放流個体群で有意に高かった。 本研究では、当初計画したメタゲノム解析を用いた遺伝子構成の比較まで至らなかったが、昨年度、餌の違いによって腸内細菌の多様性が異なること、またこれによって代謝経路に違いがある可能性を明らかにした。この結果から、人工種苗は腸内細菌が一様のまま放流されることで、天然餌料の栄養消化・吸収がままならないために成長の遅れや不良によって減耗し、腸内細菌の多様化を獲得できた個体が生き残った可能性が考えられた。これらの考察から、種苗生産時に腸内細菌の多様化を施すことが、放流後初期の減耗を防ぐ手段の一つになるかもしれない。
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