研究課題/領域番号 |
18K14522
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
國師 恵美子 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 助教 (90714866)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アスコルビン酸 / ヒメダカ / 魚胚 / 形態異常 / 含酸素多環芳香族炭化水素類 |
研究実績の概要 |
これまで、含酸素多環芳香族炭化水素類などの化学物質をヒメダカ胚に暴露すると、孵化仔魚の形態異常が確認され、骨形成への影響が示唆された。骨形成にはアスコルビン酸も関わっており、魚胚中のアスコルビン酸の変動や酸化ストレスが起きていることが予想された。含酸素多環芳香族炭化水素類などの化学物質は体内で活性酸素などを発生させることが知られており、それらに対応するための抗酸化作用のひとつとしてアスコルビン酸があげられる。本研究では、ヒメダカ胚を用いて環境を汚染する原因となる化学物質が魚胚に暴露された際の酸化ストレスと体内でのアスコルビン酸の役割を調べることを目的としている。 令和2年度では、アスコルビン酸を含まない餌をヒメダカ親魚に与えた場合の親魚への影響と魚胚への影響を確認することを目的とした。具体的には、通常餌と不足餌群の親魚の受精率や産卵数、孵化率や形態異常発生率などの影響を調べた。さらに、通常餌と不足餌を与えた親魚から得られた魚胚に数種類の化学物質を暴露し、親魚の栄養状態の違いが魚胚の化学物質への感受性の差異に影響を及ぼすかどうかについて検討を行った。 親魚に与える餌は市販で売られているメダカ用の餌中のアスコルビン酸濃度を測定した上で、特に親魚の産卵率の良いアスコルビン酸濃度の餌を人工通常餌として設定し、不足餌はアスコルビン酸を添加しないものを用意した。アスコルビン酸以外の成分は同様のものとし、各水槽に雄:雌=1:2となるようにヒメダカ親魚を収容して、人工餌へ馴致を行った後、不足餌群の餌を切り替え約1か月半の試験を行った。通常餌と不足餌では試験期間を通して受精率の変化は見られなかったが、試験開始後、2週間程度からアスコルビン酸不足餌群では産卵数の減少傾向が確認された。また試験開始1か月を過ぎた頃から雌親魚の死亡が確認され、それに伴い産卵数の減少がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度では、当初計画していた通り、アスコルビン酸含有量を減らした餌を親魚に与えて、魚胚中のアスコルビン酸濃度を経時的に測定し、魚胚中アスコルビン酸濃度が極めて少ない状態になった際に、化学物質暴露を行った場合、魚胚中酸化ストレスがどのように変化するのか、またその際のアスコルビン酸濃度との関係を調べていくことを目標としていた。しかし、感染症蔓延に伴う厳しい研究活動の自粛や試験生物の最低限の維持のみ許可された状況になったため、親魚の良好な状態を保つのが難しくなり、試験成立をさせるための必要最低限な魚胚を確保することができず、試験開始に大幅な遅れが生じた。また、昨年度、UPLCを使用し最適化を行ったアスコルビン酸の測定方法だが、測定機器の故障と交換部品の製造遅延にも感染症が影響し、修理が年度末まで完成しないことが見込まれたため、測定機器を変更したアスコルビン酸測定を試みた。アスコルビン酸の誘導体化を行い、GC/MSでの測定を検討したところ、両測定方法には感度に大きな差が見られないことが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、昨年度の実験でアスコルビン酸不足餌群と通常餌群から経時的に得られた胚に含酸素多環芳香族炭化水素類を暴露した魚胚中のアスコルビン酸濃度と酸化ストレス濃度の測定を行う。昨年度は機械の故障があったため、UPLCでの測定からGC/MSを用いた測定での変更を行い、最適化に時間を要したが、感度に問題ないことが確認できたため保管したサンプルを順次測定していく。また、当初の計画では化学物質を数種類暴露した魚胚中の酸化ストレスとアスコルビン酸の関連性を明らかにする計画であったため、すでに暴露している通常胚中の酸化ストレスの測定をすすめる。さらに、不足餌を与えた魚胚を用意し、今年度はアスコルビン酸不足胚に化学物質を暴露して、魚胚中の酸化ストレス及びアスコルビン酸濃度の測定を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初参加を予定していた国際学会や国内学会などが開催中止となり、学会参加費及び旅費が不要となった。 次年度使用額の使用計画として、アスコルビン酸測定機器を変更したため、測定機器に係る消耗品の購入費及び酸化ストレスの測定がこれまでは比色分析により行っていたが、感度の問題が生じているため、より高感度な測定を行うための試薬購入費として使用する予定である。
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