途上国の農村社会に住む人々は、社会的ネットワークを利用して経済活動を営んでいる(ネットワークの経済学)。農村社会の規範もまた、家族内の労働配分など、個人の厚生に直結する経済活動に影響を与えている(家族の経済学)。社会規範の強い農村においてネットワークが世帯の厚生に与える影響を評価するために、本研究では、伝統的に家父長制家族制度を有し、かつ、社会的ネットワークが農村内の農家・労働者階層の形成、階層間の雇用契約、生産物の販路の形成などに大きな役割を果たしていると考えられるトルコ共和国アダナ県の農村社会を対象とした。 2018年度に、調査地域において社会的ネットワークや家族制度が実際の農家行動と密接に関係しているのかどうかを確認することを目的として、現地で予備的調査を行った。予備調査の結果を受け、①階層の形成、②労働契約、③生産物の販路の形成、④生計戦略に関する調査を実施する計画を立てたが、2019年度以降の新型コロナウィルスの流行、2023年2月に発生した大地震の影響などで昨年度までアダナ県での調査を実施することができなかった。現地の状況の改善を受け、2024年3月にアダナ県で調査を実施した。調査では、21件の農家から回答を得た。調査期間が短く調査件数が少なくなってしまったため、調査地に移住し農業を開始した農家に対する聞き取りを十分にできなかった。このため、当初予定していた非移住者と移住者間のネットワークの格差についての分析はできなかった。研究期間は終了したが、今後、非移住者内でのネットワークの推定と分布の確認及び,ネットワークの大きさが農地の取得や作目選択などに与える影響について定量的な分析を実施していく。
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