本研究では、東日本大震災および原子力災害からの復興をめざす福島県を対象として、地域産業クラスターとしての産地形成の可能性を検討してきた。新型コロナウイルス感染症の影響で研究機関を一年延長し、2021年度に最終年度を迎えた。最終年度は、4年間の成果のとりまとめを行うとともに、次期の研究課題に接続させるための論考を発表した。以下、4年間の成果を簡潔に報告する。 前半の2年間は、主に理論的検討を行った。食と農に関わるさまざまな産業や主体で構成されるクラスターとしての産地形成のあり方を関連理論・概念に位置づけて考察するとともに、原子力被災地域の産地形成の動きを捉えるためのフードシステム論的分析枠組みの検討を行った。そこでは理論・概念の対象範囲を食と農を基軸とした地域づくりや地域経営、内発的発展論に広げ、原子力被災地域の産業復興と生活・コミュニティの再生を総合的に捉える視点を重視した。その成果は学術論文および書籍として発表した。 後半の2年間は、主に現地調査と分析を行った。福島県郡山市における醸造用ブドウ・ワインの産地形成、原子力被災12市町村(避難指示が発令された自治体)である双葉郡川内村における水田農業の変容とハウスブドウの産地形成、そしてクラスターとしての産地形成に果たす協同組合間連携の可能性などについて現地調査を実施し、論文を発表した。またこれらの成果は、日本協同組合学会および東北農業経済学会で開催された東日本大震災10年をテーマにした大会シンポジウムにて報告した。 このような4年間の調査研究を通して、震災10年を経て「次の10年」に向けた産地の戦略的課題について知見を得られたことは本研究全体の成果と言える。また流通上の課題として見出した中域圏の強化、すなわち広域流通と地場流通の中間的な領域のマーケティング展開については次期の研究課題として引き続き取り組んでいく。
|