「農と食の地域自給圏」のための農村社会開発手法を構築することが本研究の目的であった。そのために、1982年にフランスでスタートした「最も美しい村」の農村計画、農村社会開発手法を研究の対象とし、フランスと日本の「最も美しい村」の評価基準・手法について比較研究を行った。「美の基準」や農村計画の構造、地域資源評価の対象、審査・格付けのプロセスなどの農村社会開発手法や農食近接化の実践をフランスでの現地調査により解明した。日本では、2005年にスタートしたNPO法人「日本で最も美しい村」連合の加盟村をフィールドワークし、首長のビジョンやリーダーシップ、里山・里海の景観、自然エネルギー自給、美食革命などの日本独自の感性的評価手法の効果について研究した。 また、研究の実施過程で、東ドイツ・ザクセン州の「最も美しい村」やベトナム・メコンデルタでの「新しい農村(New Rural village)」計画とも接合し、フィリピンへも広がりかけた。研究の3年目にはコロナ渦となり、国内外のフィールドワークが叶わず、これらのフォローアップや国際共同研究の展開等にまでつなげることはできなかったが、時機を改めて、いずれチャレンジしてみたい研究テーマとネットワークを得ることができた。フランスで生まれて日本的に成熟した「最も美しい村」の農村社会開発手法が、東南アジア農村でも共感的に受け入れられた。これらは研究計画時点では想定していなかった研究成果の波及であった。 以上の研究成果は、『まちづくりの思考力――暮らし方が変わればまちが変わる』(藤本穣彦、2022年、実生社)に所収して公刊したほか、『交流まちづくり――サステイナブルな地域をつくる新しい観光』(国土総合研究機構観光まちづくり研究会編、2022年、学芸出版社)でも「最も美しい村運動――地域の自立を目指すコミュニティツーリズム」の章を共著した。
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