本研究の目的は,農村版の知識創造理論を構築することである。まず農村に存在する知識のなかでも自然資源保全に関わる知識を事例に,知識創造の実態解明に取り組んだ。兵庫県加西市の湿原保全活動を事例に住民レベルの知識創造プロセスを調査・分析した結果,地域住民,専門家,行政が知識の共有と創造を繰り返しながら確立する構造が示された。加えて,知識管理で中心的な役割を担うナレッジリーダーの確保の仕組みを明らかにするため,鳥取県の大山,兵庫県の上山高原の保全活動を事例に調査した。結果,現場知が重視される活動においては,保全活動の場が実践コミュニティとして機能し活動参加を通してナレッジリーダーが育成される仕組みとなっていると考えられた。また、植生調査など学術的な専門知識が重視される活動では,現場での活動を通して育成されず地区外から専門知識を有する人材が確保されていた。 また,知識創造を促進する組織特性を明らかにするため,コミュニティにおける知識創造に関する動機づけの解明に取り組んだ。農山村に存在する文化的知識といえる民話の継承活動をおこなうS民話会を事例にとりあげ,S民話会メンバーに対して民話の習得(暗黙知の再創造)の動機づけに関する半構造化インタビューを実施し,質的研究法を援用し分析をおこなった。分析の結果,知識を他者へ披露する機会や他者の知識に触れる機会が内発的動機づけ,外発的動機づけの両面において影響していることが示された。 これらの結果を統合し,農山村に存在する地域ナレッジを対象とした知識創造モデルの試論を構築した。そして,モデル構築のベースとなった自然資源保全と異なるタイプの知識として農作物の6次化を取り上げ,鳥取県東部のエゴマ,地場ワインの6次化を対象にインタビュー調査をおこない,モデルの検証と修正に取り組んだ。
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