サルによる被害への対策支援の実施状況について,全国のサルが生息する市町村の鳥獣担当者を対象に,2回(2015年と2017年)に分けて実施された同一項目を用いたアンケートを解析し、以下2点の結果を得た。i)市町村で実施されている被害対策に関する研修会等の被害対策支援の実施状況と被害状況や被害の増減との関連を非計量多次元尺度構成法および相関分析により解析した結果,市町村担当者の被害増減に関する意識と実施時期は関連があり,被害が増加傾向にないと判断した市町村担当者は被害対策ソフト事業の当該年度の実施を控える傾向があった。ii)被害対策の有効性については,被害の増減を目的変数とした決定木解析により,市町村側から住民への普及啓発に係る支援をしていない市町村は農業被害が減少しているとする回答が少ない傾向がみられた。 行政の対策行動への意思決定に係る部分として、近年普及しつつあるICTを用いた捕獲わなと従来型の捕獲わなの経営面における比較をおこなった。1頭あたりの捕獲に係る経費を効果とした損益分岐点を導出し,自治体担当者からみたICT機器の導入判断に係る一つの指針を示した。 住民の対策行動に対する合意形成モデルを構築するため、被害があるものの住民による対策参加が消極的と判断された市町村を対象に、1年間の行動調査結果に基づく被害リスク解析および自然災害対策行動の知見を応用したアンケート調査を用いた構造方程式モデリングをおこなった。その結果、被害リスクが低く、対策の効果を期待していない住民ほど対策に無関心になる傾向がみられ、被害リスクを低減する対策とともに、正しい知識を提供する場を設けつづけることの重要性が示唆された。
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