研究課題/領域番号 |
18K14553
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小林 りか 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (50780326)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 食品冷凍 / 油脂 / タンパク質 |
研究実績の概要 |
現状不可避である冷凍食品の貯蔵中の品質劣化を最小化するには,多くの先行研究が着目してきた氷結晶生成挙動の理解および制御だけでなく,凍結濃縮層で生ずる諸反応のメカニズム理解が必要不可欠である。食品凍結過程では,水分子が他成分を排除しながら結晶を形成するため,水以外の食品成分は濃縮を受ける。タンパク質や脂質等が含まれる濃縮層では,通常存在し得ない近接距離に成分同士が共存するため,低温にも関わらず諸成分間の分子間相互作用が変化し,最終的に,テクスチャーの劣化や保水能の低下などの冷凍食品の品質劣化を引き起こすと理解されている。その一方で,分子運動が著しく低下する低温下において,何が駆動力となり,諸成分間反応が進行するのかという疑問が存在する。 そのような状況の中,本課題では食品の凍結濃縮相中の油脂の存在状態の変化と,油-タンパク質間相互作用の存在に着目し、タンパク質系冷凍食品の品質劣化に対する油の役割を実験検討している。本年度は、油の組成がタンパク質の凝集の促進または抑制を制御しているのではないかという仮説と、タンパク質と油の相溶性は油のトリグリセリドを形成する脂肪酸種に依存するのではないかという仮説に基づいて、油とタンパク質の混合ゲルであるモデルパン生地を用いて、実験検討を行った。 その結果、添加する油中に含まれるトリグリセリドを構成する脂肪酸種中の不飽和脂肪酸の割合が増加するほど、冷凍貯蔵下でのタンパク質の凝集量が増加する傾向にあることが明らかとなり、冷凍下の油-タンパク質混合食品内でのタンパク質凝集体の増加は、油界面に吸着しているタンパク質と油との相溶性に影響を受けることが実験的に示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一昨年までに大豆タンパク質と大豆油の混合ゲルと見なせる豆腐を用いて、冷凍貯蔵下の凝集体形成に対する油の寄与を検討してきた。その中で、油界面に吸着しているタンパク質と油との結合性の違いが、タンパク質の凝集の促進または抑制を制御しているのではないかという仮説に至った。更に、タンパク質と油の結合性の違いは油のトリグリセリドを形成する脂肪酸種に依存するのではないかという仮説を立て、今年度は実験検討を行った。当初は豆腐を利用して検討を行ったが、大豆中に含まれるタンパク質と油以外の成分、例えば多糖といった成分の影響も大きく出てしまったため、グルテンと油のパン生地をモデルにした小麦ドウで検討を行った。 その結果、添加する油中に含まれるトリグリセリドを構成する脂肪酸種中の不飽和脂肪酸の割合が増加するほど、冷凍貯蔵下でのタンパク質の凝集量が増加する傾向にあることが分かった。また、油を添加しない場合はタンパク質の凝集は大きく増加しないことも分かった。その一方で、油の組成の違いに起因する冷凍下での油の結晶化挙動の違いはタンパク質の凝集形成に影響を与えないこと、小麦ドウ中では、油とタンパク質の相分離は光学顕微鏡で観察できるレベルでは生じないことが分かった。加えて、タンパク質の凝集をよく形成する油中に主要に含まれると推察される脂肪酸分子種をトリグリセリドのHSP値をソフトフェア上で推算すると、水素結合項が大きく異なり、このHHSP値の違いがタンパク質との相溶性の違いを生み出しているのではないかと考えられた。 以上より、冷凍下の油-タンパク質混合食品内でのタンパク質凝集体は、凍結濃縮を受けたタンパク質と油が互いに相溶性の違いを反映しながら結びつくことによって、生じているのではないかということが、明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
・タンパク質の凝集に含まれる油量の評価 これまでの検討によって、タンパク質の凝集形成に油が寄与することは明らかになってきたが、油自身が凝集体中に取り込まれるのか、それとも油がタンパク質から排他されることでタンパク質同士の結合が強固になっていくのか不明である。 そこで、蛍光標識した油を利用した油―タンパク質モデル懸濁液を調製、凍結貯蔵し、それらの乾燥物をゲルろ過クロマトグラフィーに供し、各フラクションを回収する。各フラクション中のタンパク量と蛍光量をアッセイすることで、凝集体の分子量分布を明らかにすると共に、その凝集体中に油がどの程度含まれているのか数値化し、油はどのようにしてタンパク質凝集形成に働きかけるのか明らかにする。 ・凍結貯蔵時のタンパク質凝集に対する油-タンパク質の相溶性評価に対するHSP値の導入 これまでに、ダイズタンパク質と小麦のタンパク質であるグルテンの凝集形成に対する油の影響を評価してきた。そこでこれらの個別の現象を体系的に整理するために、来年度はハンセン型溶解性パラメーターを導入した整理を行う。冷凍貯蔵下では、タンパク質自体も変性を受けるため、貯蔵が進むにつれてタンパクの表面状態の変化が生ずることが予想される。ハンセン溶解球法を用いて、大豆タンパク質とグルテンの表面状態の変化と各種油との相溶性をHSP値で評価し、冷凍貯蔵下のタンパク質の凝集形成メカニズムを体系的に整理する。
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