研究課題/領域番号 |
18K14555
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
土屋 遼太 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門, 研究員 (30782205)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 施設園芸 / 省エネルギー / 数値モデル / 設計 / 熱収支 / 換気計算 |
研究実績の概要 |
前年度までに構築したパイプハウスモデルに自然換気計算を追加し、側窓の開放による室温の下降を追加したシミュレーションを行う方法を構築した。本研究では、EnergyPlusのオプションとして実装された"Wind And Stack With Open Area"を適用した。本計算手法は風力換気と温度差換気を考慮したもので、温室への適用事例もあったが、EnergyPlusでは一般建築での利用が想定されているため、温室で見られる大面積の側窓や側窓と天窓の開放による自然換気は、EnergyPlusで求められるパラメータ設定では再現できない。そこで、モデルを構成する式の解析から温室を対象としたパラメータ設定手法を明らかにした。これにより、EnergyPlusを用いた省エネ対策にパッシブな環境制御を適切に反映させることが可能となった。 また、シミュレーションによる生産最適化は、ここまでの研究で対象としてきたパイプハウスよりも比較的高度な環境制御を行う、鉄骨造の大規模温室での需要が大きいと考えられる。そこで、本年度はケーススタディとして、つくば市の農研機構農村工学研究部門に設置されたガラス室のシミュレーションを実施した。今回は冬季夜間を対象とし、無植栽のガラス一重被覆温室において、化石燃料を使用した温風暖房機と電力を使用したヒートポンプでの消費エネルギーにどの程度の差が出るかを試験的に求めた。本試験では植物体や内張を反映させていないため、あくまで試算ではあるが、ヒートポンプの導入により消費熱量が大幅に削減されることを数値的に示すことができた。今後の研究により、必要なモデルの導入で試算値の妥当性の向上を目指す。 また、昨年度得られた結果により、温室への適用に向けて空気中の水分動態の再現が必要であることが明らかになったため、文献調査によりEnergyPlusに導入可能なモデルの選定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までは、EnergyPlusを用いて単純な閉鎖パイプハウスのみのモデルを作成したが、今年度は温室の環境制御で一般的である側窓や天窓を活用した自然換気や温風暖房機、ヒートポンプ暖房のモデルを構築した。これにより、EnergyPlusを温室の設計や運営計画に実践的に活用する方法を構築することができた。また、実際に実験用のガラス温室をシミュレーションし、環境制御の違いが消費エネルギー量に与える影響をモデルが評価することを数値的に示した。さらに、今年度はEnergyPlusを温室で最大限に活用していくために必要な情報を収集し、開発するモデルの方向性を決定した。これらのことから、最終年度となる次年度中に温室でのEnergyPlusの活用体系ならびにモデルの再現性評価を行うことが可能である見込みであり、「おおむね順調に進展している」という評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、公開されているEnergyPlusのソースコードに、温室で特徴的な現象を反映したモデルを導入したモジュールを追加することで、温室用EnergyPlusを開発する。研究の手順としては、前年度までの研究で選定したモデルを構築する方程式を解析し、EnergyPlusでの変数受け渡しが可能なように改良する。その後、EnergyPlusのソースコードを解析し、適切な形式で温室モジュールを構築する。構築されたモデルの再現性評価にあたっては、これまでに収集した様々な条件での温室の環境・消費エネルギーのデータを用いて、モデルの挙動を評価する。以上により、最終年度において温室用EnergyPlusの開発が完了する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた米国の開発チームとの情報交換について、調整がつかず実施しなかったため、一部はモデルの再現性評価のためのデータ計測に活用するための物品購入費用としたが、一部が余剰となり次年度使用額とした。今後、温室モデルの構築にあたり、ソフトウェアやハードウェアの整備が必要となるため、これに使用する計画である。
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